水納島の魚たち

スミツキアトヒキテンジクダイ

全長 8cm

 カタカナにして合計14文字をも費やす長大な名前の持ち主、スミツキアトヒキテンジクダイ。

 魚の名前を覚えられないとお嘆きの方々ならば、この文字の多さを見た瞬間に、その名を覚えようという気力も失せることだろう。

 とはいっても、水納島ではそうやすやすと観られる魚ではない。

 図鑑によるとこの仲間は「礁池に生息」とある。

 礁池とはすなわちインリーフのことで、島によってはそれなりに水深のある環境もあって、枝サンゴの周りに幼魚がスカテンのように群れ集う海もあるらしい。

 けれど水納島のインリーフは、どこであれ満潮時でさえ水深ヒトケタmに過ぎず、それだと浅すぎるからか、リーフの中でスミツキアトヒキテンジクダイを観たことはない。

 水納島での彼らは、むしろ深いところでしか観られない。

 わけても、広い空隙がある根が好きなようだ。

 そういうところでワシャッと群れ集う幼魚を目にしたことはないけれど、ひところなぜだか多数の若魚が集まっていることがあった。

 それまでこの場所ではまったく見られなかったのに、ある年突然ポッと湧いて出たかと思ったら、その後数年居続けてくれた。

 本来はもっと深い根が好きらしく、普段めったに行かない深場の根に行くと、暗がりではなく日の当たる(でも深いから照度は暗め)サンゴの周りに多数が集まっていることがある。

 こうしてテキトーに集まっているように見える彼らも繁殖期になるとペアごとになり、かなりのアツアツぶりな様子を見せてくれる。

 その寄り添い方はキンセンイシモチアオスジテンジクダイと同じく密接密着タイプで、メスは口内保育中のオスのそばを片時も離れない。

 仲睦まじいカップルたちがこうして子育てに励んでいるくらいだから、水納島の近海でも、きっとどこかにスミツキアトヒキテンジクダイの幼魚たちが集まる場所があるのだろう。

 一度観てみたい、幼魚たちの群舞…。

 追記(2024年5月)

 いまだ幼魚の群舞に出会えてはいないけれど、今春(2024年)わりと深場の根にオトナがまた多数集まっていた。

 多数いるものを「多数」写すことができないレンズ装備だったので3匹しか写っていないけど、この根に20〜30匹くらいいたろうか。

 まず最初にこの魚に目が行ってしまったからまったく気づかなかったことに、大きく穿たれた根の陰には、妊娠中らしき大きなネムリブカが産前休憩していた。

 20〜30匹いるものを3匹しか撮れないくらいだから、もちろんのことネムリブカなど撮れるはずはなし。

 そのかわり、おそらく世の誰も撮っていないであろう絵をおさめることができた。

 スミツキアトヒキテンジクダイとコバンザメのツーショット。

 ネムリブカも含めればスリーショットか。

 ネムリブカが妊婦なら、スミツキアトヒキテンジクダイにもイクメン中のパパがいた。

 そういえば、これまでスミツキアトヒキテンジクダイの卵を記録に残したことがない。

 この機会に卵を拝見させてもらいたいところながら、けっこう深場の根だから、ワタシに残された時間はあまりない。

 あ!

 そうだそうだ、卵を口内で保育しているテンジクダイ類では、卵をフガフガせずとも顎の薄膜を通して卵が見えるものが多いんだった。

 スミツキアトヒキテンジクダイも…

 …薄膜から卵が見えた。

 おお、目玉もできてキラキラなタマタマ〜♪

 と、反則ワザを使って卵を撮っているときに…

 …卵フガフガ。

 タイミングが合わず、口全開は撮れなかったのだった(涙)。

 ともかくスミツキアトヒキテンジクダイの初タマタマだから、もっとアップでちゃんと拝見しておこう。