全長 5cm(写真は3cmほど)
砂地に点在する小さな小さな岩の陰に、見慣れぬ小魚の姿が見えた。
マイナーなテンジクダイ類はただでさえ地味なのに、それに輪をかけて地味路線を突っ走るこの魚は、その名をタイワンマトイシモチという。
たまにこのようななんてことのない小さな岩の陰や、本来はゴミであるビンの中などを覗くと、申し訳無さそうに隠れ潜んでいることがある。
ときには夢遊病患者のように砂底を彷徨っているチビチビに会うこともある。
もっと浅いところでさらに小さな石の下に潜んでいたのかもしれない彼は、おそらく隠れ家の石をエビカニサーチ中の変態社会人に引っくり返されて、ビックリして飛び出したまま彷徨っていたのだろう。
冒頭の写真の子がいたのは、引っくり返すには大きすぎる小岩で、しかも深めの場所だったから、日中の安全地帯になっていたらしい。同じ岩の陰に、同サイズの若魚が4匹ほど潜んでいた。
タイワンマトイシモチは、本来は内湾の藻場などを主な暮らしの場にしているそうだから、こういうところにいるのはいわばイレギュラーと思われる。
何かの拍子にたまたま流れ着いたに違いない。
水納島でのボートダイビングでは、彼らが主生息地にしているような環境がないから、出会う頻度という意味ではレアな魚である。
もっとも、当店に訪れる3千万人のダイバーのうち(一部脚色アリ)、一生のうちでこの「タイワンマトイシモチ」という名を気にかける機会がある方が、はたしてどれほどいらっしゃることだろう。
月夜にひっそりと咲く月見草である彼にとって、こうして日の目を見る機会は、おそらく最初で最後になるかもしれない。
もう一度名前をおさらいしておこう。
タイワンマトイシモチ。
これで3人くらいの方は、記憶の片隅にその名を刻んでくれたことだろう。
タイワンマトイシモチ君、初めて浴びたスポットライト、いかがですか??
……月見草が向日葵になった。