水納島の魚たち

タカサゴヒメジ

全長 25cm

 沖縄の方言名で「グルクン」と総称される魚の中には、「タカサゴ」という和名の魚もいる。

 タカサゴは漢字を当てると「高砂」。

 ただし漢字はあと付けだそうで、タカサゴは能の高砂とも金屏風の前の新郎新婦の席とも関係はないそうだ。

 タカは岩礁、サゴは雑魚・小魚という意味の漁師言葉で、「タカサゴ」とはすなわち「岩礁にいる小魚」の意味なのだとか。

 では、このタカサゴヒメジはどういう意味なんだろう?

 タカサゴと同じ意味?

 それともタカサゴに似ているから?

 どちらも違った。

 台湾が日本統治下にあった頃、日本は原住民部族を高砂族と称することにした。

 そのため高砂=台湾という意味合いもあり、本土から見た場合に「南方」という語感も持たれていたそうな。

 すなわちタカサゴヒメジとは、南方のヒメジっていう意味合いらしい。

 南方といいつつ本土の海でも観られるタカサゴヒメジではあるけれど、海中で撮られている写真を図鑑やネット上で拝見すると、赤っぽい色をしているものが多い。

 砂底の色や光の届く量とのかねあいで、場所によっては色を濃い目にしていることが多いからだろうか。

 その点水納島のように白い砂地にいるタカサゴヒメジは、背側がうっすらとレモン色で、体側にわずかに点が見える程度(黄色い筋が見えることもある)。

 ほとんと白といっていい色なので、目立たないことこのうえない。

 ただし着底してジッとしているときなどには、赤くなっていることもある(奥にいるのはマルクチヒメジ)。

 おそらく夜寝ているときにも赤くなっているのだろう。

 クリーニングをしてもらっている時にも、普段よりも多少色づいて見えた。

 ホンソメワケベラ・ダブルにタキベラチビターレという豪華フルコースのクリーニングケアを受けているタカサゴヒメジの図。

 水納島では砂地のポイントのガレ場よりも深い海底付近でたまに観られ、たいてい3〜5匹ほどが一緒になって行動している。

 そしてときおり着底しては、ヒメジらしくヒゲを使ってモゾモゾモゾ…と砂底で餌を探す。

 もっとも、目立たないために意識しなければ記憶に残ることがほとんどなく、出会ったことがあるのかないのか、なかなか思い出せない魚でもある。

 出会いたくともそうそう出会えず、出会っていても覚えていないとなれば、それはもう「いない」に等しい。

 ところで。

 聞くところによると関東あたりでは、このタカサゴヒメジはホウライヒメジと並び称される「日本のルージェ」の地位を確保しているらしい。

 おフランスの地中海料理に欠かせない魚、ルージェ。

 海の中で出会っただけでは記憶に残らなくとも、ひとたび口にすれば、終生忘れ得ぬ思い出が生まれるかも?