全長 50cm
既知の魚に似ていると、「ニセ」とか「モドキ」といった安直な名がつくことが多い魚たちだから、テングハギモドキもたいそうテングハギにそっくり…
…かと思ったら、モドキというほど似ているわけでもない(※個人の感想です)。
だって、どこにも「テング印」がないのだから見間違えようはずはないし、むしろ名前がそっくりでややこしいだけのような気が……(※個人の感想です)。
一方、沖縄の方言名はテングハギ=チヌマンとはしっかり区別されていて、テングハギモドキは「ヒレーカー」と呼ばれている。
獲れたての白身はしまりがあり、ハギ類の「クセ」が苦にならないヒトにはかなり美味しいお刺身になる。
テングハギがわりとリーフ際に近いところで群れているのに対し、テングハギモドキはもっと水深がある潮通しのいいところで巨群を作っている。
ニザダイ類はもっぱら藻食なのかと思いきや、日常的に群れているタイプは、オトナになると動物プランクトン食になるそうだ。
プランクトン食だと餌を奪い合う必要がないから、仲間を集めて群れることもできるのだろう。
一筆書きでOKなフォルム、そしてパッと見モノトーンのシンプルデザイン。それでいてわりと大きなハギだから、中層に悠然と群れているとかなり存在感がある。
また、テングハギの群れとは違い、テングハギモドキは彼らのほうから寄ってきてくれることもしばしば。
一緒に中層に浮いていると、彼らの集団に取り囲まれることもある。
何かに寄り添う習性があるのだろうか、時には水中ブイのロープに沿って、まるで干物のようにズラリと勢揃いしていることもあった。
日中はこのようにいつも群れているテングハギモドキながら、ときおり群れを離れた数匹が海底付近までやってくることがある。
テキトーに群れて中層を泳いでいるだけのように見えて、その実海底のどこにホンソメワケベラのクリーニングステーションがあるのか知っている彼らは、好みのホンソメ耳鼻咽喉&デンタルクリニックで、体のケアをしてもらうのだ。
オトナのサイズはテングハギよりも大きいテングハギモドキにも、チビターレの時期がある。
毎年夏の初めになると、砂底に点在する小岩を拠り所にしながら、3cmほどのチビチビテングハギモドキがチラホラ姿を見せ始める。
テングハギ同様、チビターレは可愛い。
テングハギのチビターレとは違い、もともとリーフの外が好みの生息環境なのだろうか、初夏から夏にかけて、なんてことのない小さな岩を拠り所にしているテングハギモドキのチビターレにちょくちょく出会える。
とはいえオトナの群れに比べればまったく目立たないチビターレ、目ざとく見つけて出会えた方だけが、そのヨロコビに浸ることができるのだ。
ただし彼らは厳しいサバイバル環境を生き抜いているから、みながみな傷ひとつ無い姿で暮らしているわけではなく、けっこう高確率でヒレの端々が傷んでいる。
そこかしこで観られるからといって、みながみなオトナになるまで生き残れるわけではないのだろう。
地味とはいえなにげに存在感のある群れを作るオトナたちは、そのような厳しいサバイバルを生き抜いた勇者たちなのだ。
小岩のそばで健気にピロピロ泳いでいるチビターレ、勇者の群れの一員になれるだろうか。