全長 10cm
ツキノワガレイの一種であるために、そこにさらに特徴を表す語句がついて、やたらと長い和名になってしまったジャノメツキノワガレイ。
この立派な説明調の名がついたのは、2004年のことだ。
それ以前も日本国内での観察例はあったものの、洋書の図鑑に掲載されている英名が通称になっており、スリースポットフラウンダーと呼ばれていた。
冒頭の写真は白い砂底にカモフラージュしているためまったく目立っていないけれど、英名のとおり「3点」が体表にクッキリと現れることもある。
このショボい写真を撮ったのは96年のことで、当然ながらこの魚を見つけた当時、日本の図鑑には載っておらず、正体を探るのには苦労した。
…というか、例によって瀬能さんに写真鑑定をお願いしたところ、正体をご教示いただいた次第。
そして、当時所有していたインド洋産やオーストラリア産の洋書の海水魚図鑑にしっかり載っているってことも、あとから知ることとなった…。
これまた例によって、キチンと調べないまま瀬能さんを頼ってしまったのだった。
でも各図鑑には、水納島のような白い砂地にいる写真が無かったからなぁ……< いいわけ。
というか、彼らジャノメツキノワガレイの最大の特徴は、その名のとおりの蛇の目模様でも、右カレイのはずなのに左カレイ状態の口の位置でもなく、その胸ビレ(表面のヒレ)にある。
そもそも初めて彼に出会ったときは、最初そこにカレイがいることなどまったく気づかず、彼の胸ビレを未知の不思議的生物かと勘違いして注目してしまったのだ。
なんと彼らジャノメツキノワガレイは、特徴的な形の胸ビレを、まるで別の小さな生き物であるかのように動かすのである!
付け根を起点に、円を描くようにゆっくりクルクル回すので、開いたり…
閉じたり……
しているように見える。
また、前方に倒したり…
すぐまた立たせたりと、まさに「生き生き」とヒレを動かすから、ついついそこにだけ目が行ってしまう。
胸ビレの色は体色同様変化させられるのか、黒っぽくなっているものもいる。
ボディは砂底に対する隠蔽効果抜群のため、この胸ビレだけが目立つようになっているのだ。
おそらくはカエルアンコウたちと同様、小魚などをおびき寄せてゲットするための疑似餌なのだろう。
けれどワタシの知るかぎり、今のところこのヒレに騙された生き物といえばワタシくらいのもので、小魚がフラフラ近寄って食べられちゃった、なんてシーンは観たことがない(水槽などで確認されているのだろうか)。
ジャノメツキノワガレイ、あるいはスリースポットフラウンダーは、和名であれ英名であれ、名前からはまったく類推できない、そしてフツーの図鑑じゃ知ることができない、見事な隠し技の持ち主なのである。
残念ながら水納島では、
トゲダルマガレイ > セイテンビラメ > ジャノメツキノワガレイ
という遭遇頻度で、年に何度か目にすることがあるセイテンビラメよりも遥かに出会う機会が少ないジャノメツキノワガレイは、5年に1度くらいしか出会えない。
なりは地味でも隠し技の持ち主、出会ったその時は千載一遇のチャンスです。
ああそうだ、千載一遇といえば。
これまたフィルムで写真を撮っていた頃、90年代後半に撮った写真のなかに、こういうものもあった。
背中から撮ってしまっているこの写真、お腹を見ると、ポッコリ膨れている。
これはおそらく産卵前のメスがお腹を卵ではち切れんばかりにさせているものと思われる。
この写真、実は当コーナーをリライトする前の本種の稿の冒頭の写真で使用していたにもかかわらず、今の今(2019年10月)までまったく気がついていませんでした(汗)。
まったく気づけなかった「千載一遇」……。