全長 35cm
なにしろ夜の帝王なので、日中見られるところはやはり岩陰などの仄暗い場所であることが多い。
でもとにかくでっかいために、とってもよく目立つトガリエビス。
時には冒頭の写真のように昼日中に表を出歩いていることもあれば、サンゴの陰で休んでいることもある。
魚影が濃い海では、暗がりでトガリエビスが多数群れているシーンも観られる。
かつて訪れたモルディブの海では……
惜しげもなく多数が群れていた。
残念ながら水納島周辺では、たとえ同じような環境であっても…
…そこで観られるトガリエビスはたいてい1匹。2匹もいれば「おっ?」となるほどだ。
それでもアカマツカサ類がワラワラワラ…と群れている真ん中で、まるでその場のボスのごとき風情で悠然としていると、まさにキングオブキングスといった感がある。
英名で「ソルジャーフィッシュ」と言われるだけあって、トガリエビスはひとつ抜きん出た存在感を誇っているのだ。
……にしても、なんで「ソルジャー」なの??
その頬に生えている鋭い突起が武器のように見えるから?
かと思いきや、聞くところによると、全身のウロコが、騎士の鎧のように硬いからなのだとか。
なんだ、防御的思考から来る連想だったのか…。
となると、全身が針で包まれたハリセンボンなんて、究極のソルジャーフィッシュってことになる???
< ならないと思います。
やっぱ、横から観た戦闘的なフォルムも大事ですわね。
しかしながらこのソルジャーフィッシュ、こうして横から見る分には雄々しくも勇ましい姿形なんだけど、まったく弱々しく見える一面がある。
前から見ると……
なんとも情けない顔をしているのだ。
この顔で「ソルジャー」と言われましても…。
その昔、多くの日本人に魚たちの表情の面白さを知らしめてくれた、中村征夫氏の名著「海中顔面博覧会」という写真集にも、このトガリエビスの表情を捉えた一枚が載っている。
その写真のタイトルは……
「いじわる!」
なにやら拗ねたような不平顔をしている表情にピッタリ。
しかし彼の兵士としての名誉のためにも付け加えておくと、同じ顔でもアングルを変えれば……
雄々しくも勇ましいソルジャーフェイスに。
トガリエビスは、兵士と拗ねた子という二面性をもつ夜の帝王なのである。
※追記(2023年1月)
昨年(2022年)、ソルジャーフェイスに新たな表情が加わった。
ここというところでホームランをかっ飛ばした直後、まだボールがスタンドに入る前に味方ベンチを指さすスワローズ村上選手のような、大きなシゴトをやり遂げた男前の顔。
そして…
…吠える。
もちろんこれはアクビをしかけているところで、実はずっとアクビチャンスを待っていたワタシ。
ところがこのあと波動砲級に口を開けてくれるのかと思いきや、せいぜいゲップ程度にしか口を開けてくれない。
たいていの魚はアクビをする際に全身のヒレを広げるから、アクビは普段は閉じられたままになっているトガリエビスの背ビレ全開を見るチャンスでもある。
横向きになっているときに、再びアクビチャンス!
…かと思いきや、これまたゲップ程度で終わってしまった。
アクビをしようとするときにピカッ!と光らせるものだから、途中でやめちゃうのだろうか。
それとも、彼らのアクビはこの程度の口の開け方なのだろうか。