全長 5cm
長い間観たいと思い続けても、なかなか出会えない魚はけっこういる。
このツバメタナバタウオも、ワタシにとってそういう魚のひとつだった。
念願かない、彼に初めて出会ったのは、2010年のこと。
リーフがパッチ状に入り組んだ浅場のオーバーハングの陰に、まだ若いツバメタナバタウオがたった1匹だけ泳いでいた。
ちなみに、彼らのように岩陰で暮らしている小魚は岩肌を腹側にするため、オーバーハングの陰にいる子を実際に海中で眺めると、↓こういう具合に見える。
天地が逆さまになっているわ、暗くてよく見えないわで、そこに彼の姿を見出すのは一苦労なんだけど、幸い同じ場所に3年ほど居続けてくれたおかげで、こうして記録に残すことができたのだった。
写真でじっくり眺めてみると、岩陰でひっそり隠れ潜んでいるのが惜しくなるほどに、シブくきれいな魚であることがよくわかる。
その後ツバメタナバタウオとは、他の場所でそれぞれ1匹ずつ計3個体と出会ったのみ。
2019年シーズンが終了した時点で、過去25シーズンを通じ、都合4個体しか観たことがないことになる。
水納島ではとってもレアな魚なのだ。
ところが。
本島でよく潜っておられるゲストに先年伺ったところでは、本島のポイントではわりとちょくちょく目にするのだそうな。
目と鼻の先の海であっても、観られる魚は一様ではないのである。
それにしても、「ちょくちょく」観られるというのは、いったいどれくらいいるってことなんだろう?
と、素朴な疑問を抱いていたおりもおり、衝撃的な写真を目にしてしまった。
「大浦湾の生きものたち」(ダイビングチームスナフキン刊)という、世間に無料で頒布されているA4サイズのパンフレットがある。
普天間基地の移設問題で揺れる辺野古のお膝元の大浦湾の生き物たちを、親切丁寧かつビジュアル的に美しくカラフルな写真で紹介している素敵な冊子だ。
そのパンフレットの中に、こういう写真が掲載されていた。
なんという数!!
(ホントはもっときれいな写真です)
25年でたった4個体しか観られない水納島からすれば、その数およそ500年分……。
しかし逆に、水納島ではフツーに観られる生き物たちなのに、大浦湾ではなかなか観られない、というケースもきっとあるに違いない。
大事なことは。
日本地図の上ではほぼ同じ場所、同じ海とされかねないこんな近距離であってさえ、そこで観られる生き物たちは、けっして同じではないのである。
ジュゴンがいるからとか、貴重な生き物が住んでいるからとか、そういうことに関係なく、埋め立てていい海などこの世にひとつもないのだ。
……ということを、たった4匹のツバメタナバタウオが、静かに優しく教えてくれている。