全長 20cm
珍しい魚、といわれるものには2通りあって、その場所で見るのは珍しいけれども他の海域に行けば比較的簡単に見られる、というものと、どこに行ってもとにかく滅多に出会えない、というものがある。
一連のチョウチョウウオたちを紹介しているこのコーナーで、「水納島では珍しい」と言っているものは前者だ。
ところがこのツキチョウチョウウオは後者になる。
どこに行ったら見られる、なんて情報がまったくと言っていいほどないくらいに珍しいチョウチョウウオなのである(台湾あたりに多いというウワサがある)。
……とずっと思っていたところ、なんとタイのタオ島ではこのツキチョウがゴシャッと群れているそうな。
そんなにたくさんいてどうするの?ってくらい群れている写真を見せてもらったことがある。
やはりいるところにはいたか、ツキチョウ。
しかしやはり日本では出会うことなど望むべくもないほど超レアで、もちろん水納島でも極レアなチョウチョウウオだ。
そんなツキチョウチョウウオが、水納島に姿を現してくれたことがある。
もう前世紀のことになるけれど、島に遊びに来ていたダイビングクラブの後輩が、ダイビング後船に上がるなり
「ツキチョウチョウウオがいた」
と言った。
それもリーフの上に……。
その時その場にいたKINDONもオタマサもワタシも、水納島の通い慣れたポイントで見られる魚についてはその当時すでにだいたい承知しているつもりだったから、普通のチョウチョウウオと見間違えただけなんじゃないの?とからかった。
しかし念のため、と思って3点セットをつけて飛び込むと……
なんと彼女の言うとおり、チョウチョウウオとそっくりながらも、明らかに模様の異なるチョウチョウウオ類がいるではないか。
まさしく、ツキチョウチョウウオであった。
このツキチョウチョウウオは、その後1年以上も同じ場所で見られた。
その間多くのお客さんにも見ていただいたものの、その中の何名がこのチョウチョウウオと出会えるヨロコビを理解してくださったか、はなはだ心もとない。
翌年にはその姿は見られなくなった。
出会った時点ですでにオトナサイズだったから、寿命がつきてしまったのだろうか。
後年また出会えたものの、同じ個体ではないと思われる。
その後デジタル一眼レフを使用するようになってからは、まだ一度も出会ったことはない。
水納島で観られたツキチョウチョウウオ、という意味では、限られた枚数しかないポジフィルムは、貴重な記録であり記憶なのである。