水納島の魚たち

ツマグロサンカクハゼ

全長 3cm

 サンカクハゼの仲間たちも種類が多い。

 とはいえパッと見がきれいというわけでも、エビと共生しているわけでも、巨群を作るというわけでもなく、視界の片隅で砂底をチョロチョロしている通行人A…といった扱いを受けているものばかり。

 「私、サンカクハゼの大ファンなんです♪♪」

 などと瞳を輝かせて話すダイバーがいたら、そのヒトは相当変わり者だと思って間違いはなく、付き合いを考え直した方がいいかもしれない。

 ただし一般的には通行人A扱いではあっても、なかには特徴的なものもいて、ツマグロサンカクハゼもそのひとつ。

 背ビレのつま、すなわち端が黒いからこの名があるのだろうけれど、ツマグロサンカクハゼはこのよく目立つ背ビレに要注目だ。

 根の傍の砂底でチョロチョロしていることが多い彼らは、いつもその背ビレをピコッピコッと小刻みに開いたり閉じたりするのである。

 その仕草はまるで旗を振っているようで、いったい誰に何を伝えようとしているのか、伝えようとしているわけではないのならなんのためにピコピコヒレを動かしているのか、ひとたび気になりだすと、夜も眠れなくなるかもしれない。

 そうなると彼らの存在がやけに目立つようになり、あっちでピコピコ、こっちでピコピコとヒレを振っている彼らに出会えるようになるだろう。

 ところで、ツマグロサンカクハゼとかなり近い仲間にヒレフリサンカクハゼというものもいる。

 同じような動きをするのに、どういうわけか人気はヒレフリサンカクハゼのほうが高い。

 それはヒレの色がけっこうきれいな赤色だからか、その出現頻度がツマグロサンカクハゼよりも限られているからなのかはわからないけれど、残念ながら過去26シーズン(2020年現在)過ごしている水納島で、ヒレフリサンカクハゼに出会ったことはない。

 追記(2022年11月)

 このピコピコ振っている背ビレには、個体ごとにビミョーに違いがあることに最近気がついた。

 というか、実は本文中ではさもフツーにいるように書いているけど、これを書いていた当時を含め、近年はどういうわけかツマグロサンカクハゼに出会う頻度が激減していて、全然遭遇できない日が続いていた。

 ところが昨年(2021年)あたりからポツポツ姿を見かけるようになってきて、それらが成長したのだろうか、今年はこれまで観たことがないような大きな個体にも会った。

 それにしても、これまで観てきたツマグロサンカクハゼといえば、その名のとおり背ビレの端(ツマ)が黒かったのに、どういうわけかこのビッグサイズの背ビレの色は薄い。

 というか、昨年あたりからポツポツ見かけるようになったツマグロサンカクハゼたちは、大小問わず背ビレの上半分の色が薄い気がする。

 従来観ていたものも正真正銘の「黒」ではなかったにせよ、もっと色濃かったイメージなんだけど、これはどういうことなんだろう?

 色だけなら環境の変化ってこともあるだろうけど、さらにヘンテコな子もいた。

 居場所も動き方も体の模様も、すべてツマグロサンカクハゼであることを物語っていたのだけれど、その最大の特徴である背ビレだけが、これまで見たことがないほど小ぶりだったのだ。

 ツマグロサンカクハゼは小さいものでも背ビレはオトナ同様の特徴があるから、若い個体だから背ビレが小さいというわけではないし、そもそもわりと大きめの個体だ。

 雌雄で背ビレが異なるという話も聞いたことはない。

 単にヒレが傷んでいるだけなのだろうか。

 傷んでいるだけなら、ヒレを振り甲斐がないこの子だけがカワイソウということで済むけど、ひょっとして色も形も、海の酸性化がツマグロサンカクハゼの背ビレに変化をもたらしているとか?

 話がオオゴトではないことを祈ろう。