全長 20cm
水納島の場合、中層で多数が群れているアカモンガラを除き、モンガラ類のなかでは断トツで数が多いツマジロモンガラ。
リーフ際の転石帯あたりから、さほど深くはない砂底まで、広くあまねくどこにでもいる。
おそらくモンガラカワハギを1匹見つける間に、ツマジロモンガラは大小含めて50匹くらいに出会うことになるだろう。
それほど数が多いツマジロモンガラながら、困ったことがひとつ。
どういう色合いの魚なのか、ひとくちに説明することができないほどに、体色を自在に変化させるのだ。
モンガラ類の多くは体色の濃淡を自在に変えられるので、同じ個体なのに色調がガラリと変わるというのはお馴染みのことではある。
しかしこのツマジロモンガラの場合、その体色の変化に脈絡が無さ過ぎ。
手元の写真をズラリと並べてみても……
これすべて、同じポイントで観られる同じ種類の魚。
体の地色にとどまらず、目の下のラインの色も、黄色かったり白かったり黒かったり。
顎からお腹にかけて青味がかるものもいて、様子を観ていると、どうやらこれがオスの印っぽい。
なので青味については出したり消したりというわけにはいかなそうながら、その他の変化は同じ個体があっという間に行う。
それにしてもこれほど多様だと、すぐにはツマジロモンガラだとわからないのでは……
…という方も心配御無用。
体の色は多様でも、すべてのバージョンでただひとつ共通している特徴があるのだ。
そう、尾ビレ。
ツマジロモンガラの尾ビレには、白い縁取りが必ずあるのだ。
閉じているとわかりづらいけど、尾ビレの先の白い部分は必ず見えるから、これでもうどんな色をしていてもツマジロモンガラ認定は可能だ。
この尾ビレの特徴はチビターレも同様で、ツマジロモンガラのチビチビは……
…尾ビレに白い模様があるのに対し、わりと似ているので間違えやすいメガネハギのチビターレの尾ビレは……
…無地。
もっとも、ツマジロモンガラのチビターレもオトナ同様ややこしくて、メガネハギのチビに似た色合いのチビが少し育つと……
これはその成長の過程がわかりやすいバージョン。
でも、同じチビチビなのに、↓こういう色になっているチビターレもいるのだ。
幼魚のこの体色の違いは、気分による体色変化というわけではなさそう。
また、同じポイントで両タイプどちらも観られるとなると、環境の違いとか育ちの違いというわけでもないようだ。
いったい何がチビターレの色を左右しているのだろう……。
オトナもチビもたくさんいるから観察する機会には事欠かないツマジロモンガラ。
しかし地味&たくさんいる&話題に上ることがないという3拍子が揃うと、ダイバーの眼中にはなかなか入らなくなる。
それを無理矢理眼中に押し込んでみると、ツマジロモンガラはいつも海底付近で餌を探していることに気づく。
岩肌についた藻類やら小動物やらを食べているのだろう。
でもその食べ方が随分荒っぽく、岩肌に付いている目当てのモノにかぶりつく際に…
ただ齧り取るためにかぶりつくのではなく、そのままけっこうな勢いで吸い込んでいるらしい。
そうするとそこに堆積している砂も一緒に吸い込むことになり、そのため彼らがこのように食事をしているときは…
けっこうな量の砂が、鰓から絶えず排出されている。
もちろん食べた後は、口からも砂をブシューッと出す。
そんなツマジロモンガラも、水温が高くなり始めると海底に産卵床を作る。
やはりメスが卵の世話をする。
ツマジロママの口の先を観てみると、ちゃんとすり鉢状にこさえられてある産卵床に、直径6〜7cmほどの卵塊がある(中央のモサモサしている部分が卵)。
繁殖期になるとやたらと攻撃的になるのは他のモンガラ類同様で、自分の体よりも遥かに大きなダイバーに対しても、ツマジロモンガラは威嚇のため体を上下に膨らませながら、睨みつけるような目をしつつ、ダッシュで迫ってくる。
それは相手がダイバーだからというわけではなく、たとえゴマモンガラであっても、卵をケアしているツマジロモンガラは果敢に追い払う。
圧倒的に自分よりも小さなツマジロモンガラに攻撃され、スゴスゴとその場を去るゴマモンガラの様子を観ていると、「卵を守っている」という行為は、モンガラ類の中ではどうやら水戸黄門の印籠なみの効果があるらしい……。
そんな印籠効果含みで卵をケアしているツマジロモンガラの様子はこんな感じ。
個体数が多いだけに、初夏から夏にかけて見かける機会が多いツマジロモンガラの卵ケア、ゴマモンガラへの接近は怖くとも、ツマジロモンガラならきっと大丈夫です。
※追記(2019年9月)
夏の初めに、ツマジロモンガラがケンカをしているところに出くわした。
ところが、ケンカしていると思ったら、体色といい体格差といい、どうやら2匹はオスとメスのようだ。
…ってことは、これは愛の儀式なの??
それにしては激しすぎるんですけど。
静止画像で観てさえケンカにしか見えない両者の様子、動画で観るとその激しさをよりいっそうわかっていただけるはず。
この激しさ、ドメスティックなラブなのかバイオレンスなのか。
同じモンガラの仲間のメガネハギが卵を守っている様子もこの日観られたので、卵のケアをしているメスをよく観てみると…
その体、特に後半部分に、随分傷跡が残っている。
これもやはり、オスによる激しい愛の儀式のせいなのだろうか。