全長 150cm
エイには大きくわけて2グループあり、スティングレイとイーグルレイに区別される、ということはマダラトビエイの稿で触れた。
ダイビング中に出会うとなると、よほど巨大なモノでないかぎり、やはりスティングレイよりはイーグルレイ、すなわちトビエイ類のほうがカッコイイ(※個人の感想です)。
水納島で観られるトビエイといえば、マダラトビエイ。
でもときおり思い出したように、ウシバナトビエイも登場してくれることがある。
シュッとした顔つきの(本来の口の位置は忘れてください)マダラトビエイに比べ、いささかどんくさそうな顔に見えるウシバナトビエイながら、登場してくれるときはきまって団体様だ。
5匹ちょいくらいの群れや…
…10匹ちょいの群れが、のんびり砂地を行く。
彼らはたいていゆったり泳いでいることもあって、その姿は牛鼻などという冴えない名とは裏腹に、実に優雅で美しい。
そんなウシバナトビエイは、時に物凄い群れになることでも知られている。
繁殖と関係しているのだろうか、どこにそんなにたくさんいたの?ってくらい数多いウシバナトビエイが密集隊形で群れなし、ドドドドドーッと泳ぐのだ。
当店でも、まだご経験本数4ダイブくらいのご夫妻が、それがどんなにすごいチャンスかわからないまま、その栄誉に浴されたことがある。
とはいえ猫も杓子もコンデジという今の世ならともかく、ご経験本数4本となれば、カメラを手にしておられるはずはなし、彼らをガイドしていた当時のスタッフ・オチアイ氏もカメラはなし。
残念ながら、千載一遇のチャンスは、目撃情報だけで終わってしまった。
その後2012年の秋に、台風後のやや濁った海中でウシバナトビエイ実感100匹の大群にワタシも遭遇したものの、いかんせんゲストをご案内中のことゆえ手にはカメラはなし、ゲストのカメラでも捉えることはできなかったから、これまた記録写真はなし。
ウシバナトビエイの巨群は、このまま追い風参考記録だけで終わってしまうのだろうか。
ところがその2年後、2014年4月のこと。
まだダイビングシーズン開始前で、その日の夕刻にはタケノコサンタご夫妻がご来島、夜にはタケノコ祭りになる日のことである。
日中はヒマだったから、午前中は呑気にカメラを携えて遊びで潜っていた。
普段ちょくちょく訪れる砂地の根の様子を伺おうとしたところ、何もないはずの砂底に巨大な影が揺らめいた。
ん?
透明度は随分良かったから、その姿がハッキリ見える。
あまりのことに、まずは目を疑った。
しかしそれは、紛うかたなきウシバナトビエイ100匹(それ以上かも…)の群れ!!
……が全員揃って、海底で餌を漁っている!
小さい写真じゃわかりにくいから、一部拡大。
これまでウシバナトビエイが優雅に泳いでいるシーンは何度か観てきたけれど、こうして海底で餌を漁っているシーンは初めてだ。
それも大集団で!
…という興奮オーラを思いっきり放出してしまったらしく、それを察知したウシバナトビエイたちは、ワタシが接近する前に海底から離れ始めた。
離陸(?)の様子も一部拡大で。
砂煙を巻き上げつつの、なかなか激しい離陸。
激しく離陸したものの、素早くダッシュで逃げるわけではなく、群れはゆったりと泳ぎ始めた。
ただしウシバナトビエイたちはゆったりでも、そのスピードはけっこう速い。
ゼェゼェあえぎつつ必死こいて追いすがり、とりあえず横から……
このまま横からついていってもよかったのだけど、やはりエイは上か下から観たほうが絵になるんじゃ……
…と思い直し、上に回ることにした。
口から飛び出しそうな心臓を押さえつけながら懸命に追いすがり……
冒頭の写真も、この必死のパッチの際のモノ。
ワタシの動きのせいでいったん群れは2つに別れちゃったものの、泳いでいるうちにやがてまた収束していた。
いやあもう……アドレナリン大噴出!!
これでこのとき手にしているのがマクロレンズだったりしたら、マグニチュード10級の地団駄を踏んだことだろう。
地球のためにも太平洋諸国のためにも、フィッシュアイレンズ装備でよかったよかった。
ちなみにこのとき、同じくカメラを携えて遊んでいたオタマサ、彼女が目にしたものといえばこれだけ。
ウシバナトビエイのフン。
平たい形状のものが、らせんを描くように円状になってひねり出されたようになっている。
悠然と群れ泳いでいた彼らは、ワタシが群れを追いかけている最中も、そこらじゅうにフンをまき散らしていた。
観ていたワタシはもちろんそれがトビエイの糞だとわかるけれど、糞だけ目撃したオタマサは、
「観たことがない糞だなぁ…なんだろう?フンフン」
などと言いつつ、アラレちゃんのようにフンを指示棒でツンツンつつきながら首を30度ひねっていたのだった。
同じ海に潜っていて、トビエイ100匹の群れを観られるヒトと、フンだけしか見られないヒトがいるのである。
なんだか格差社会の現代日本の縮図のようで興味深い……。
その後もこのウシバナトビエイの大群は、忘れた頃に思い出したように出現してくれている。
出会う機会は少なくとも、出会った個体数はマダラトビエイを遥かに凌いでいるのは間違いない。
トータルで振り返ってみると、群れの出現は4月であったり10月であったり真夏であったりと季節は様々だ。
この大集団は繁殖時期とは関係ないのだろうか。
昨年(2018年)7月にもまた出会った。
それも、ゲストのみなさんがエントリーする前、ひと足早めに入り、予備のアンカーをくくりつけているときだった。
本来ならチャチャチャとシゴトを済ませ、ゲストがエントリーしてこられるのをのんびり待っているはずのときに、彼方から忍び寄る影が目に入ってしまった。
まぎれもないウシバナトビエイの群れ!
まだエントリーして来ないゲストには申し訳ないけれど、すぐさまポッケからコンデジを取り出してパシャ。
ボートを停めているブイの付け根からすぐ近くを通り過ぎていったウシバナトビエイ軍団、かろうじて早めにエントリーした方のみ、遠目にチラリと観ることができたのだった(ボートの上でモサこいているヒトは、おうおうにしてチャンスを逃します)。
そのうちのお1人は、先にも述べた、ご経験本数4本の頃にウシバナトビエイの巨群に出会われたゲスト、仙台チームのTさんオクサマなのだった。
フンだけしか見られないヒトがいるかと思えば、一生に一度級を水納島で二度も体験されている方もいらっしゃるのである。
まさしく格差社会。