全長 50cm
時は21世紀。
西暦2000年代になってから20年も経過した今、すべて夢のまた夢でしかなくなっている前世紀に撮った魚の記憶など、もはや欠片すら残ってはいない。
しかし写真というのは大したもので、そんな月日が流れても、ふとその画像を見ると当時の記憶が朧月夜の雲の向こうのお月様くらいには甦ってくる。
ウスバハギと思われる写真の魚は、たしか砂地のポイントの中層で、幽霊のようにボンヤリしていた。
近寄ると逃げる大きめの魚を遠くから無理矢理マクロレンズで撮ったのだけど、正体を知る分には役には立った(ウスバハギですよね?)。
撮影したのは水納島に越してきてからまだ1年しか経っていない96年のことで、当時は「こういう魚もいるんだなぁ…」と思ったものだったけれど、結局今に至るまでそれが唯一のウスバハギとの出会いだ。
水納島ではレアながら、水産資源としてのウスバハギは相当美味しいらしく、カワハギの仲間の中ではカワハギ、ウマヅラハギについで重宝されているのだそうだ。
ただしそれはあくまでも水産資源として有名なのであって、沖縄に限らず本土でもダイバーが海中で出会う機会はあまりないのか、画像検索を軽くしてみたところでは、そのほとんどが釣果など水揚げされたものばかりだった。
では、魚類資料検索データベースではどうだろう。
調べてみたところ、ほぼほぼすべて本土の海で撮影された水中写真のなかに、唯一沖縄の海で撮影された個体のピンボケ画像が数枚あった。
しかしその撮影データによると、沖縄は沖縄でも撮影地は沖縄トラフで、
「しんかい2000 #141 潜航,着底深度 1590 m」
レジャーダイビングでは無縁の深海なのだった。
ということはですよ、沖縄でも釣果としては知られているウスバハギながら、沖縄の海中で撮影されたウスバハギの画像って、けっこう珍しいんじゃないの??
……ということに、撮影後ほぼ四半世紀経ってから気がついたワタシなのだった。
< 遅すぎ。