全長 15cm(写真は8cmほどの若魚)
図鑑によっては、日本のサンゴ礁域では稀、と書かれることがあるヤマブキスズメダイ。
たしかにいわゆるサンゴ礁という雰囲気の場所ではなかなか見られない。そのかわり、ドロップオフではわりあいよく見られる。
よく見られるといっても群れているわけではなく、数匹が周囲にいる程度。
でも黄色いおせんべいのような大きなスズメダイなので、遠くからでもすぐそれとわかる。
ドロップオフのような潮通しのいい環境には、岩肌から伸びる付着生物が多く、各種ヤギ類もよく育っている。
ヤマブキスズメダイは、そのようなサンゴの死んだ部分を産卵床にしている(生きているヤギ類に直接産みつけると書いてあるものもあるけれど、ワタシは観たことがない)。
棒状に伸びている死んだムチカラマツに、卵がビッシリ産みつけられている。
周りの警戒を怠らないオスが卵を守っている。
ミツボシクロスズメダイのように闘争心旺盛ではないので、ダイバーが近寄ると卵のそばになかなか来てくれないものの、不用意に近寄って来るタテジマヤッコを果敢に追い払ったりもするから、魚相手にはしっかり仕事をしているパパではある。
あいにく水納島周辺には、このような環境は中ノ瀬にでも行かないかぎりないため、ヤマブキスズメダイはお馴染みの魚ではなく、ごく稀に砂地の根に花咲くイソバナに幼魚がたどり着いていることがあるのがせいぜいだ。
せっかく砂地の根にたどり着いた幼魚も、そこが彼らの生息に適した環境ではないためか、ほどなく姿を消してしまう。
近年の水納島の砂地の根は、本島から潜りに来るダイビングショップが増えてしまった影響もあり、イタイダイバーによって付着生物がどんどん傷めつけられる傾向にある。
そのため長年観察し続けていたウミシダは消え、もともと数少なかったイソバナなどのヤギ類も次々にボロボロになっていくので、ヤマブキスズメダイが拠所にできるような場がほとんどなくなっている。
ところが2016年の秋に、ヤマブキスズメダイのチビが久しぶりに砂地の根に居ついてくれた。
そこはわりと大きく育ったヤギがまだ健在なところで(それでも、1年通して無傷だったことは近年一度も無い…)、ヤギ好きのヤマブキスズメダイにとってはうってつけの場所ではある。
でもこんな米粒に毛が生えた程度に小さなチビターレ、とてもじゃないけど生き残れないだろうなぁ……
…と思いきや。
その半月後……
健在。
1ヶ月後……
健在。
そして発見から3ヶ月後……
グッと成長しつつなおも健在!
さすがにこれが限界か……
……と思いきや。
年が明けて2017年1月……
まだ頑張ってる!!
そして発見から半年後の3月には……一番上の写真の大きさに。
もう色形はほぼオトナ同様の黄色いおせんべいだ。
当初はヤギ周辺から離れなかったものが、この頃には行動範囲も随分広がっており、4月頃にはもう、ヤギから随分離れてプランクトンを啄んでいた。
そして5月……
6月……
そしてシーズンたけなわの夏も乗り切ったヤマブキ君は、1周年の節目も無事乗り越え、また新たな年(2018年)を迎えた。
で、2018年2月には……
中ノ瀬で見られるオトナに比べると、まだ2周りほど小ぶりではあるものの、その存在感といい色形といい、すでに立派な「成魚」になっている模様。
いかんせん、ここでどんなに立派なオトナに成長しようとも、パートナーが来てくれる確率は非常に低い……。
まぁしかし、世の中にヤマブキスズメダイはたくさんいるだろうけど、米粒大の大きさからここまで写真を撮られた子は、そうはいないと思われる。
ロンリーヤマブキ君、はたして2018年のシーズンも無事に乗り越えることができるか?
乞うご期待。
※追記
残念ながらこのヤマブキスズメダイは、2018年のシーズンを乗り越えることはできず、4月を最後に姿を消してしまいました……。
米粒サイズでの登場から1年半経った2018年4月13日に撮ったコンデジ写真が、彼の最後の姿となったのだった。
※追記(2020年10月)
砂地のポイントでは滅多に観られないし、居そうな場所に行ってもたくさん観られるわけではない水納島のヤマブキスズメダイながら、環境さえ整えば、幼魚がワッと集まることもあるようだ。
ある岩場のポイントの、水深30mよりも深い崖の壁面に茂っているウミカラマツの周りに……
チビターレがいっぱい!
砂地の根なら1匹でも激レアなヤマブキスズメダイが、この小さな写真の中だけでも8匹ほども。
ひときわ大きく育っている1匹を除き、他はすべて米粒程度のチビチビだ。
こういうシーンは他所で撮られた写真では見たことがあるけれど、ウミカラマツが成育するような環境といいヤマブキスズメダイが暮らせる場所といい、それぞれ水納島周辺では望むべくもないから、なんだか海外の海に来たかのような雰囲気だった。