全長 12cm
魚の名前には、地名やヒトの名前が冠されたものがけっこうあるけれど、オジサンやキタマクラなど、
「どんな魚だろう?」
と、ついつい興味をかきたてられる名前もわりと多い。
このヤミスズキは、一見「鈴木さん」にちなんだ名前のようでありながら、ヤミすなわち闇。
闇の鈴木さんって、いったい何?
ビミョーにおぼろげかつアヤシゲな雰囲気を湛えているその名を知った途端、俄然興味をかきたてられる(※個人の感想です)。
もっとも、当然ながらスズキは鈴木さんとは関係がなく、魚のスズキだ。
一部の魚種に特化したマニアックなものを除き、世に出ている一般的な魚類図鑑の半分くらいは実は「スズキ目」に属する魚たちで、ダイバーが目にする魚のほとんどはスズキ目の魚である、といっても過言ではない。
そんなスズキ界の闇の世界を牛耳っているかのような名前のヤミスズキは、アヤシゲなその名とは裏腹に、けっこうカッコイイ色形をしている。
リーフ際から水深30m超の崖まで、さほど深さにはこだわらずに暮らしている彼らの数はさほど多くはなく、これまで単独でいるところしか観たことがない。
深さにはこだわらないけれど、闇スズキというだけに暮らしの場の「暗さ」にはそうとうこだわりをもっており、とにかく暗い岩陰でしか観られないので、肉眼では上の写真のように見えるわけではない。
それどころか、暗がりでは背ビレ後端付け根付近の黄色いスポットだけが浮いて見え、それだけがまるで別の生き物であるかのように見えるほどだ。
個人的にはけっこうカッコイイ魚だと思ってはいても、メジャーではないからゲストの多くはご存知ではなく、暗闇に潜む黄色い点を指さして「ヤミスズキです」とお伝えしても、ゲストの頭の上には「?」マークが3つほど並んでいる…なんてこともよくある。
だからといってライトを当てると、光は苦手なヤミスズキは岩陰のさらに奥に隠れてしまう。
結局3つほど並んでいたゲスト頭上の「?」マークは、さらにその数を増やして終了…ということになりがちだ。
そうならないためにも、今のうちからヤミスズキをキチンと認識して目を慣らしておこう。
というわけで、「ヤミスズキを探せ!」
すぐにわかりましたね?
ただしライトを照らしたからといって、写真のようにいつでも横向きの体を見せてくれるわけではない。
むしろ正面やや上を向いていたり……
下を向いていたり……。
こうなると「黄色い点」がまったく目印にならないから、スルーしてしまうかもしれない…。
ヤミスズキが光を浴びる日は遠い。
※追記(2021年11月)
2021年10月、普段よく潜っているポイントのリーフ際、オーバーハング下に穿たれた小さな半洞穴を覗き込んでみたところ、黄色〜ピンクに見える4cmほどの、姿といい動きっぷりといいタナバタウオ系ではなかろうか…と思える珍し系の魚の姿が奥の方に見えた。
あいにくガイド中のこととてカメラを手にしていはいなかったので、近くを通りかかったオタマサを呼んで、ダメ元で撮ってもらった。
てっきりタナバタウオ系かと思ったその魚は、ヤミスズキのチビだった。
ヤミスズキのチビはオトナとは色味がまったく異なり、黄色味が強いプリティ系の魚だから、一度観てみたいと思っていた。
残念ながらこの半洞穴にいるチビはそこまでチビターレではなく、色彩的にはオトナの雰囲気も出てきてはいたけれど、オタマサに撮ってもらったときはまだまだ黄色味が残っていた。
3日後にカメラを携えて再訪のチャンス到来。
さっそく小さな半洞穴を覗き込んでみたところ、健在。
そのあたりを完全に縄張りにしているらしい。
ただし彼がいるオーバーハング下のミニ洞穴は、ミニだけに入り込めず、それでいて奥行きがあるために、姿は見えても暗い狭い近づけない…。
身を乗り出して撮ろうとすると、呼吸をするたびに吐き出す泡が天井を洗ってしまうため、積もっている砂成分がダーッと降り注いでしまう。
そうならないようにするためには、撮っている間は息をひそめ、ほぼ1枚撮るごとに洞穴から身を引いて息をして…
…を繰り返す必要が。
必然的に息をガマンする時間が長くなり、まるで素潜りしているような不自由さを味わわされてしまった(※良い子はマネしてはいけません)。
その甲斐あっ…
…たらよいところ、闇の中のスズキミニはライトで照らしたときに浮かび上がる姿ほどには黄色っぽくなく、いまひとつチビターレ感がない。
しかもこちらに背中を向けてばかりいるし天地逆向きだし、こちら向きになっていたりすると……
正体不明の珍生物になってしまう。
かろうじて一度だけ、正位置横向き姿勢になってくれた…
…けど、こうやって撮っちゃうとチビターレ感はまるで無し。
でもまぁ、↓オトナに比べれば…
…たしかにミニなヤミスズキではある。
あとひと月早く発見していたら、黄色いスズキミニに会えていたかもしれない。
普段遊びで潜っているときは暗がりをライトで照らすことはほとんどないのだけど、それではスズキミニキレンジャーの発見はおぼつかない。
闇に潜むスズキミニを求め、来夏は暗がり暴露マンになるしかないか…。