全長 25cm
キツネアマダイと同じく、砂底の環境を好むヤセアマダイ。
水納島では、砂地のポイントをウロウロしていれば、フツーに出会うことができる魚だ。
でも砂底が広がる環境で潜り慣れていない方にとっては、やはりこの魚も気になる存在なのだろう、他にいろいろご覧になっているにもかかわらず、開口一番
「あの魚はなんですか?」
エキジット後にそう訊ねられることがよくある。
白い砂地では頭部の黄色味も体後半の青味もさほど目立たないから、ただの白っぽい魚にしか見えないヤセアマダイ。
しかし10cmくらいの若い頃は、さすが「ヤセ」アマダイと言われるだけあって、なかなか上品かつ清楚可憐に見える。
伊豆あたりに季節来遊漁として現れるチビをご存知の方が初めて白い砂地のヤセアマダイをご覧になると、同じ種類には見えないかもしれない。
@西伊豆大瀬崎
これは大昔(90年代前半)に伊豆は大瀬崎のおそらくは岬の先端で撮ったヤセアマダイのチビ。
図鑑に載っているのもこれくらいの色味のものが多いから、同じ種類と思えないのも無理はない。
あるいは、いまだ知らぬハナハゼの仲間か、と期待を寄せつつ…ということもあってのお尋ねなのだろう。
体色の濃淡の差はあれど、10cmくらいだとエレガントさが漂っていたものが、15cmくらいになると……
…顔つきにややふてぶてしさが出てくる。
そのため、せっかく若い子を見て興味をお持ちになった方も、その後正体を知り、オトナの姿を見、何度でも会えることがわかると、途端にヤセアマダイを脇役の末席の末席にポジションチェンジしてしまう。
砂底に点在する小岩や、石が集積しているところの脇に巣穴を構えるヤセアマダイは、キツネアマダイ同様オトナになるとたいていペアになり、巣穴を中心とした半径5mくらいの周囲でユラユラとホバリングしている。
この岩のすぐ下に巣穴の入り口がある。
巣穴から離れているところに居ても、近寄るとスルスルスルスル……と巣穴入り口のそばまで戻ってきて、こちらの様子を伺う。
そこで無遠慮にさらに近づくと、ヤセアマダイはシュッと巣穴に逃げ込む。
この巣穴の入り口がまたやけに狭く、もう絶対に着られないと誰が見ても明らかなウェットスーツを、本人だけがそうと認めずに必死に着ようとしているかのような無理がある場合もある。
誰かが作った巣穴を居抜きで利用しているのだろうか?
そういう様子も観ていて楽しいのだけれど、あいにく砂地で潜り慣れた方には、いつしか相手にされなくなってしまうヤセアマダイ。
しかし海の中には、ここぞとばかりにヤセアマダイを相手にする魚がいた。
……エサとして。
普段は砂の上でジッとしているミナミアカエソも、いざゲット!というときには一瞬のうちに小魚を捕らえる。
そして瞬く間に飲み込んでしまい、おちおち写真を撮る隙すら与えてくれないことのほうが多い。
ところがこの時は、ヤセアマダイ若魚が大きめだったのと、ちょうどエラがミナミアカエソの下アゴに引っかかってしまっていたため、飲み込むまで相当時間がかかっていた。
捕えられてしまった側からすれば、どうせ失われてしまう生命なら、いっそのこと一瞬で飲み込まれたほうが楽なのかもしれない。
でも生き物たちは、最後の最後まで生きようとする努力を、けっして放棄したりはしない。
だから余計に、黒い大きなお目目がセツナイ……。
それにしても、いくら大口のエソとはいえ、ヤセアマダイを飲み込んでしまったら……
体の中全部ヤセアマダイになってしまうんじゃ……。
そんな余計な心配はともかく、あんなに素早く巣穴に逃げ込めるヤセアマダイを、若魚とはいえゲットしてしまえるなんて、ミナミアカエソ、タダモノではない。
いつでも呑気そうにホバリングしていられるように見えるヤセアマダイだけれど、危険がいっぱいの海の中。
近づくと巣穴にシュッと逃げ込むのには、ちゃんと理由があるのだった。