全長 8cm
共生ハゼを好きになるダイバーは数多い。
そしてそれがエスカレートすると、なにもわざわざそんなところで潜らなくても……というような場所で泥に塗れては、目当てのハゼを見つけてムフフフフ……と不気味に笑うことになる。
このヤツシハゼも、本来はそういう変態社会の人たちと仲良くしている共生ハゼだ。
だから、清く正しく健全な人たちが集まる水納島での通常のファンダイビングでは、出会う機会はまずないといっていい。
ところがそんな水納島にも、このヤツシハゼがいる場所があった。
それはビーチの中。
水納ビーチはもともと天然の海岸だけど、桟橋やら防波堤やら突堤といった人工物のせいで、場所によっては水が淀み、本来浜の真砂が堆積しているはずのところが、一部砂泥底になるところがある。
そういう場所こそが、彼らヤツシハゼの安住の地なのだ。
そしてそこは、藻場でもある。
かつての海水浴場エリア内には、ゴルフ場のグリーンのように藻場が点在していたことがあった。
そこに
「ヤツシハゼがいますよ」
…と教えてくださったのは、ビーチの帝王こと巨匠コスゲさんだ。
後日件の藻場に行ってみると、いるわいるわ、藻場のなかにウジャウジャといっていいくらいにヤツシハゼたちがひしめいていた。
それほど数多くいるにもかかわらず、藻場以外の場所にはまったく見当たらない。
彼らにとってこの藻場は、砂漠のオアシスにも似た貴重な環境なのだろう。
そんな藻場が………
…埋まってしまった(涙)。
海水浴場を維持するためにたびたび採られた沖縄県北部土木事務所の工事の方法は、ただいたずらに砂を海中に堆積させる結果となり、海水浴エリアのサンゴも藻場も、やがて次々に砂の下に埋まってしまったのである。
そしてヤツシハゼは、その存在をほとんどの人が知ることのないまま、人知れず姿を消したのであった。