水納島の魚たち

ヨツメトラギス

全長 25cm

 オグロトラギスと同様、死サンゴ礫が転がるガレ場ゾーンで見られるヨツメトラギス。

 でもリーフの中にはいないし、オグロトラギスにくらべ数は少ないから、いつでもどこでも感はあまりない(かといって珍しいわけではまったくない)。

 その名の由来は背中の模様で、なるほど、たしかに上から見ると目が四つあるように見える。

 目のような模様、すなわち眼状斑を持つ魚はわりと多く、それらの多くは、本来の目とは掛け離れた場所に目玉模様がある。

 子供の頃だけそういった眼状斑を持つものもいる、ということも考えあわせると、これはおそらく捕食者の目を惑わす一助になっているのだろう。

 でもヨツメトラギスの、目のすぐそばに目のマークというのは、いったいなんの役に立つのだろう?

 しかもヨツメトラギスの目玉模様はオトナのオスのみで、メスや子供にはボヤけた不完全なものしかない。

 となるとこの目玉模様、サバイバルアイテムというよりは、オスの力誇示マークなのだろうか。

 面白いことに、目玉模様がクッキリ出ているヨツメトラギスのオスをずっとストーキングしていると、しつこさに嫌気がさすのか、この目玉模様は薄くなる。

 先に揚げた目玉模様の子とまったく同じ子で、同じ場所、同じ時に撮ったもの。ほんの数秒ですぐに色褪せるのだ(濃くなる時もすぐ)。

 危険を感じると目立なくさせるくらいだから、やはりサバイバル用ではなさそうだ。

 きっとこの目玉模様は、素敵なあの子にオスがオスであることをアピールするうえで欠かせない、男気模様なのだろう。

 ところでこのヨツメトラギス、オグロトラギスに比べると数が少ないせいか、同じようなところに住み同じようなものを食べているはずなのに、オグロトラギスほどダイバーと遊んではくれない。

 なのでそうやすやすと正面からご尊顔を拝ませてはくれないのだけれど、隠れ家に逃げ込んだときはチャンスだ。

 目玉模様が無いと、誰なんだかさっぱりわからなくなる……。

 やはりヨツメトラギスは、目玉模様があってこそ。

 眼状斑は、アイデンティティ・アイなのである。