全長 40cm
浴衣というよりはパジャマのような派手な魚だけれど、海中で観ると赤味が失せ、随分地味な魚に見える。
そのため、ご案内がてらライトで照らして本来の色をご覧いただくと、そこで初めて本来の色を知るに至りカメラを向ける、というゲストも多い。
ただしユカタハタの体の色はその時の気分か何かですぐに変わり、同じとき同じ場所でもこれくらい異なることもある。
また、すぐ近くにある隣の根とよく行き来しているユカタハタは、隣の根から戻ってくるときに↓こういう色になっていたことがあった。
10月のことだったけど、ナニゴトだったのだろう?
興奮色?
興奮といえば、繁殖時期なのか、オスらしき大きな個体がメスらしき小さな個体に対して、実に強引な迫り方をしていることもあった。
どう見てもこのオスは、「いーじゃねーかよッ!!」と言っている酔っ払いオヤジにしか見えない…。
いざとなるとメスを相手にオヤジっぷりを発揮するユカタハタながら、砂地の根では誰からも恐れられ、かつ頼られるゴッドファーザー的存在だ。
ハナダイやスズメダイが群れ集う根には、ユカタハタがたいてい複数匹いて(そのうちオスはおそらく1匹)、オコゼ類、カサゴ類などの闖入者に対して絶えず目を光らせている。
たしかにそこに住む小魚を普段食べてはいるものの、小魚たちの脅威となる外来者に対しては、地域社会の公序良俗安寧秩序を守るべく果敢な攻撃をし、撃退することもしばしばだ。
小魚達も、自分たちで発見した外来のオコゼなどには集団で攻撃をくわえることもあるけれど、にっちもさっちもいかないと知るや、ユカタハタに応援を求めることもあるほどだ。
頼られている、という自覚もあるのだろうか、ユカタハタの泳ぎっぷりは貫禄十分で、ときには我々ダイバーに対してさえ睨みをきかせる。
そうとは知らずに手で追い散らしたり、急にカメラを向けて脅かしたりすると、ユカタハタの面目は丸つぶれになってしまう。
そして彼の自尊心は大きく傷つき、根の社会における権威も失墜してしまうかもしれないのである。
根で魚を観察するときは、彼の威光を敬い、プライドを尊重しなければならない。
そうすれば、ユカタハタはだんだん自信を取り戻し、胸を張って泳いでくれるようになる。
おでこ(?)のあたりのラインに一段あるのが大型個体の印。
このような立派なボス・ユカタハタが居ついていない、もしくは居なくなった根は、急速に小魚の数が減る。
彼がいてくれるおかげで、根の社会の公序良俗・安寧秩序が保たれているのである。
彼らが居心地よく暮らしている根には、ゴッドファーザー御用達のクリーニングケアスポットがある。
普段何かとお世話になっているユカタハタに、ベンテンコモンエビとホンソメワケベラチビターレが2人がかりで献身ケア。
各種クリーナーに対しては全幅の信頼を寄せるボスだから、口の仲間でケアしてもらいたいときにはあられもない姿になることもある。
クリーナーたちも心得たもので、アカシマシラヒゲエビは肉食魚の口の中でも平気でお掃除。
…と、ここまでのデンタルケアは順調だった。
ところがアカシマシラヒゲエビ、触れてはいけない何かに触ってしまったのだろうか、それとも施術ミスでもしたのだろうか、はたまた治療中に大爆笑ギャグをかっとばしてしまったのだろうか、それまですっかり身を委ねていたボスユカタハタだったのに、突如……
これ、静止画像だとエビがハタの下唇に載っているだけに見えるけれど、エビの触角をよく見てみると……
…慣性の法則が働いている。
そう、ユカタハタの喉奥から吐き出されているのだ。
擬音をつけるなら「バヒュッ!!」とでも入れたいくらいの勢いでユカタハタが水流を放出、喉奥にいたアカシマシラヒゲエビは、瞬時に外まで吹き飛んできたのだった。
ひょっとしてアカシマシラヒゲエビ、このスリルを味わいたいがために、ユカタハタ喉奥の禁断のスイッチを押していたりして……。
ちなみにユカタハタもアカシマシラヒゲエビも水納島でフツーに観られるけれど、アカシマシラヒゲエビがユカタハタをクリーニングしているところは、水納島ではなにげになかなか観られなかったりする。
ときにはエビと戯れつつも貫禄たっぷりなユカタハタにも、もちろん若い頃もあれば子供の頃もある。
若いユカタハタは、小さな体に比して目が大きく、スポット模様のひとつひとつも大きいから、やけにかわいく見える。
同じ根にオトナがいるとわりとおとなしめにしているけれど、そこに彼だけとなると、早くもボスの片鱗を見せる。
これよりももっと小さい頃は……
これで10cmくらい。
これくらい小さいとさすがに周囲に対してエラそうにはしていられないらしく、むしろ相当なビビリだからすぐに岩陰に逃げ込んでしまう。
でもそこはそれ、相手によっては引けない時もある。
砂地の根で観られるタテキンことタテジマキンチャクダイの幼魚は、縄張り意識が強いせいか、時として身の程をわきまえない挑戦をすることがあり、その根のボスであるユカタハタのオトナに向かって、ヒレ全開ポーズでオラオラオラ!とやることも。
相手がユカタハタの幼魚となればなおのこと、タテキンチビターレはエラそうにする。
しかしユカタハタチビターレも黙ってはいなかった。
両者一歩も譲らず戦いは血を見るまで……ってことにはならなかったけど、普段のビビリ具合からは想像もできないユカタハタチビターレの頑張りだった。
さすがボスの子。
これよりもさらに小さい子はスポット模様がまったく無いオレンジ色で、見た目はもうほとんどハナダイだ。
観たことは何度かあるんだけど、残念ながら写真は無い……。
こういった将来のボスがスクスク育てる環境があれば、砂地の根はいつまでも健全で、小魚たちは安心して群れ集っていられる。
ところが、以前まではハナダイたちがたくさん群れていたのに、急に小魚たちの数が減る根がある。
そういう根ではたいてい、それ以前までいたユカタハタもしくは他のボスハタの姿が見えなくなっている。
その原因に心当たりが無くもないけれど、ともかく、かつてはどこにでもいたユカタハタの立派なオスの勇姿が、近頃とみに減ってしまっているのがとても気がかりな今日この頃。
「立派なオス」に限定すれば、ユカタハタはとっくの昔に絶滅危惧種なのかもしれない。
※追記(2022年12月)
その後3年経って、心配されたユカタハタの立派なオスの姿は、徐々に元に戻りつつある。
一斉に訪れた世代交代だったのだろうか?
それとも、本島から夜な夜な漁をしに来ていたヒトが体を壊したとか?
オトナが増えれば子供も増えるから…というわけではないけれど、警戒心が強いためになかなか撮れないチビターレの最小記録更新!
…オタマサが。
ブルーの点が少し出始めているとはいえ、ハナダイ類に見紛うばかりのカワイイ姿はほんの4cmほど。
これが将来ボスにまで育つなんて想像もできないけれど、チビはチビでも…
…やはりどこかしらハタっぽさが。
「ナメてたら喰っちゃうぞ!」とでもいいたげなウーマクーなのだった。