●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2012年2月号
本島から水納島に来るためには、基本的に定期連絡船に乗らなければならない。
所要時間片道15分、島の総人口を遥かに上回る定員160名の立派な高速船だ。
学生時代に私が島に遊びに来ていた頃の連絡船は、島のおじいが船長をする素朴な鉄鋼船で、今と同じ距離を30分ぐらいかけていた。
大雨に見舞われた時などは、途中で本島の港に引き返してしまい、島に渡れなかったこともある。
我々が島に引っ越してきたときには、すでに定員96名の高速船に変わっていて、所要時間がグンと短くなり(料金は高くなったけど)、島のおじい1人だった乗務員は、5名もの若い船員さんたちを擁するようになっていた。
そのうち2人は島外出身者で、ともに県内の水産高校を卒業後、それぞれ遠洋漁業に携わっていたという履歴をもっている。
彼らの昔話を聞くのはとても面白い。
日本の遠洋漁業華やかなりし頃のこと、タコやマグロやカツオを求め、南洋諸島やアフリカ沖、大西洋など文字通り世界の海を股にかけていたから、当時の船上生活のよもやま話や、上陸先での武勇伝など、数え上げれば枚挙に暇がない。
なかでも、来る日も来る日も魚を食べる船上生活で身についた、魚をいかに美味く食べるか、という知識と経験と技術は、我々が最も恩恵に与っている部分でもある。
大雑把なのだけれど、感動的なまでのその手際のよさ、そしてその味。
お店で食べるよりも格段に美味しいのだ。
夏休み以外の時期は連絡船の便数がそれほど多くはないので、船員さんは日中でも時間が空く。
定期便の合間の2時間くらいで、パパッと準備して海に繰り出しては獲物をゲット、そして夕刻連絡船を係留したあとに、桟橋で思う存分魚をさばき、夜にはそれを肴に一杯、というのが船員さんの島の暮らしだ。
そんな素敵な船員さんなのだけれど、観光地に従事する船員としては大きな欠点がある。
初対面の人に対して愛想がないのだ。
知り合いであればフツーによくしゃべるし、笑顔も自然に出るのに、それが初対面の一般客相手だと、なぜだか苦虫を噛み潰したような顔しかできないのである。
ときには相手に恐怖すら感じさせるほどであろう。
シーズン中の水納島の乗船客といえばたいてい初対面であることを思えば、これはサービス業としては致命的だ。
そういう様子を目にするたび、陰でコソッと「スマイル、スマイル、営業トーク!!」なんて言いながらある船員さんを茶化すのだけど、本人曰く
「俺には無理!!」
普段とのギャップがおもしろくて個人的には楽しいものの、ただ連絡船の運航時刻を質問しただけの観光客が、「船員さんてコワイ!」と思っているのはほぼ間違いない。
沖縄の船員さんたちって、どこでも同じようなものなのだろうか。
と思っていたら、昨年訪れた八重山地方の連絡船で、まるで旅客機のキャビンアテンダントのような応対をする船員を目の当たりにしてしまった。
やはりこうだよなぁ普通……と思う一方で、沖縄の田舎に来たという旅情はその分薄れる気もした。
島の規模からすると分不相応なくらい立派な連絡船に、愛想のない船員さんがいる……というのは、ある意味けっこう味があると言えるかもしれない。
ひょっとすると「コワイ船員さん」というのも、ヤンバルクイナと同じくらいの絶滅危惧種かもしれないのだから。