●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2004年4月号
水納島には商店がない。
そのため、食料とか生活必需品はどうやって手に入れるんですか?とお客さんからよく聞かれる。
手に入れる方法は主に3つ。
1つは本島側の連絡船船着場の近くの商店に、電話で注文して連絡船に物資を載せてもらう方法。
この場合、支払いがツケになるのはいいとして、買える品が限られるという弱点がある。
2つ目は自給自足する方法。
昔はほぼこの方法で事足りていたそうだし、今でも魚介類や野菜はできるだけ自給しているが、食うだけでは生活といえなくなった今の世の中では、さすがにすべてをそれでまかなうのは無理である。
最も一般的な手段が、自分で買出しに行くこと。自分で買い出しに行くなんて普通は当たり前だけれど、離島の場合いくつかの難題がある。
連絡船を利用するのでその時間に合わせてしか動けないから、最終便が出てから「しまった!」と思っても後の祭りだし、連絡船での往復1人1330円を考えると、500円の物を買うためだけに出かけるわけにはいかない。
それゆえ買出しは1週間から2週間に1度くらいに抑え、そのとき大量買いをすることになるし、一度本島に出たら無駄なく所用を済ませようとするので時間に余裕がなくなる。
そうなると今度は買い物の量が半端ではなくなる。
夏場の海の家を除き、水納島には外食するところもないから、食事といえばどうしても自炊しなければならず、次回買出しに出るまで足りるだけの食料と生活必需品を買い込むことになるからだ。
たとえ家族2人であっても、買出しの量はまるで運動部の合宿のようになってしまう。
こんな状況なんだけど、不便というマイナス要素ばかりではないことに気づく。
たまの買出しのときに買いもらしがないよういつもメモを取るようになると同時に冷蔵庫の中身も計画的に使うようになって、さまざまなものを早め早めに買い足しておく癖もついた。
ちょくちょく買い物に行くよりもこのほうがむしろ無駄なものを買わずにすむし、買い物の手間も省けてかえっていいような気がしている。
賢い主婦なら当たり前のことだろうけど、以前の私と比べると画期的なことなのである。
水納島に越してきた当時は、この「たまにしか買出しにいけない」ということがかなりプレッシャーだった。
あれがない、これがなくなりそう、と大騒ぎをしていたことなどしょっちゅう。
それがいつの間にか余裕に満ち溢れているのだから不思議なものだ。
島に無いとなると逆にそれがほしくなるもので、テレビでケンタッキーのCMなどを見ると途端に食べたくなったりもした。
それが今ではファーストフードには食指が動かないし、買えば済むものでもなければ他のもので、あるいは作れるものは作ってしまえ、の精神で生活できるようになっている。
そのおかげで工夫や機転がきくようになり、知識も増えていいことずくめである。
これらは、いつでもなんでも手に入る都会的コンビニエンスな環境で生活していたら気づかなかったことだろう。そしてそのまま一個の人間としての生きる知恵や力が後退してしまったに違いない。
たかが本島から船で15分の距離ではあるが、それに気づくことができて本当に良かったと思っている。