●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2014年8月号
沖縄のスーパーのおにぎり売り場を見渡すと、梅、シャケ、ツナなどに混じって、「油味噌」と書かれたラベルが貼ってあるものがある。
本土の方が初めてそのラベルを見て、はたしてそのおにぎりの味を想像できるだろうか。
かくいう私も、沖縄で過ごすことになった学生時代、何の予備知識もないままにかぶりついたおにぎりの中から、甘辛くて茶色いもの、すなわち油味噌が出てきたときは、求めていたおにぎりの味ではないということを通り越した衝撃を受けたものだった。
すかさず周りにいた沖縄生まれの友人に尋ねたところ、沖縄でおにぎりの具といえば油味噌が定番なのだという。
油味噌とは、味噌と豚肉をメインにだしや各種調味料を足して作るもので、沖縄の各家庭では普段から大量に自家製の油味噌を備蓄しておくらしい。
であればこそ、コンビニが今ほど幅を利かせていなかった当時、沖縄の商店で売られているおにぎりの中身は、特に何も表示されていなければ油味噌があたりまえだったのである。
ところが寡聞にして無知の権化のような私にとってのおにぎりの中身は、梅干、シャケ、たらこ、おかかが定番だった。
常温の店頭で売られているものだったら、持ちがよい梅干だろう、くらいに思っていたわけだ。
そこへもってきて油味噌とくれば、カルチャーショック以外のなにものでもなかったのである。
それから随分時を経て島に越してきたときは、すでに油味噌のことは熟知していたから、おにぎりに関してはもう驚くことはないだろう……と思いきや、意外なところでビックリすることになってしまった。
おにぎり押し型である。
手軽におにぎりが作れるアイテムとして、今では日本全国津々浦々で利用されているこのおにぎり押し型、これまた浅学菲才たる私はまったくその存在を知らなかった。
島に越してきた当初民宿の手伝いをしていたときのこと、おばあからおにぎりを作れるかと問われ、てっきり握って作るものだとばかり思って気軽に請け負ったところ、見たこともないおにぎり押し型を差し出され途方に暮れたものだった。
島の民宿や海の家の軽食メニューとしてたくさんおにぎりを作るようになって久しいということもあって、島の各家庭で作られるおにぎりもたいていの場合このおにぎり押し型が使われている。
「母の味」としてのおにぎりが押し型製でいいのかという気がしなくもないものの、大量のおにぎりを手早く作れるその能力は、こういう地域では欠かせない存在なのだ。
ちなみに民宿や海の家で売られているおにぎりは、夏場の気温が高いことや客の大半が本土の観光客であることに配慮し、具はほぼ梅干しオンリーなのだけれど、島の行事でおにぎりをたくさん作る時は、やはり必ず具に油味噌を使う。
油味噌のおにぎりが当たり前のものになってみると、初めて食べたときの衝撃はどこへやら、美味しいしご飯粒ともマッチするし、いつしか「おにぎりといえば油味噌でしょう!」と思っている自分に気づく。
即座に選べないほど多種多様なおにぎりが並んでいる近頃のコンビニだけど、やはり沖縄でおにぎりを買うのであれば、家庭の味、故郷の味、沖縄の味の油味噌をおいてほかにない。
沖縄旅行の際におにぎりを買う機会があれば、ぜひ「油味噌」をお試しあれ。