●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2014年10月号
ダイビングの器材はかさばるし重いから、たいていのゲストは滞在先の水納島まで事前に送ることになる。
その発送手続きの際には、送り先の住所に「〒905-0227 本部町水納島」と書けば、あとは宛名を書くだけで事足りる。
当店のウェブサイト上でも、住所表記はそのとおりに表示しており、それをご覧になったゲストは、そのとおりに宛先を書く。
ところがその荷物を受け付ける郵便局や宅配便の窓口、コンビニなどでは、まさかこの住所で荷物がちゃんと届くとは思えないらしく、係の人から番地までちゃんと書いてくれと言われるケースが多いという。
本部町近辺の人ならば、水納島ならとりあえず島に送っておけば、後は宛名だけで問題ないということがわかる。
しかし一般社会の感覚からすれば、島の名前と宛名だけでは、「ペンギン村のアラレちゃん」と書かれているのと大差ないのだろう。
実は、「水納島」もしくは「水納」という地名が付いた住所は、少なくとも本部町内には存在しない。
もともと水納島の開闢に由来するのがお隣の瀬底島ということもあるためか、水納島の住所は本部町字瀬底○○○○番地なのだ。
4ケタの数字は6千番台で、字瀬底の6千番台であれば水納島である、とわかるようにはなっている。
とはいえ知らない方が住所だけをご覧になれば、まず間違いなく瀬底島を思い浮かべるに違いない。
その勘違いがやや困ったことになる場合もある。
台風などで電話が故障した際、NTT故障受付に修理を依頼し、伝えられた修理予定の日時に作業員の到着を待っていると、
「すみません、今瀬底島にいるんですけど、現場はどこですか?」
という電話が業者からかかってくるということがよくあるのだ。
橋で本島と繋がっている瀬底島と勘違いしないよう、何度も何度も連絡船の運航時刻を伝えてあったというのに……。
そのほか、正式な住所が字瀬底ということもあって、本部町内の選挙管理的には水納島も瀬底区に分類され、各種選挙の投票を当日にするためには、期日前投票会場になる本部町役場よりも遥かに遠い、瀬底島の公民館に行かねばならなくなる。
略式的に書く住所よりも、正式な住所であるほうがわかりにくく、なおかつあらゆる面で不便というのは、いったいどういうことだろう。
以前、新潟県方面に大きな地震があった際、付近住民が避難生活を送っている体育館への郵便配達というエピソードで、地元密着型の郵便局だから、配達員が名前と顔で配達できる、といういかにも地方らしく微笑ましい話があった。
水納島もまったく同様だ。
郵便局の配達スタッフは毎日同じ人で、学校の1クラスにも満たない島民はすべて知り合いだから、本部郵便局まで届きさえすれば、あとは名前だけで本人まで届くようになっている。
役所的に正式な住所よりも、遥かに優れた配達システムなのである。
ダイビングの器材を送るにしても、字瀬底○○○○番地という正式住所よりも、単に水納島と書いて送ったほうが簡易だし、旅行者としてもよりいっそう味わい深いのではなかろうか。宛先にそれしか書かれていなくても、ちゃんと届く社会があるということをもう少し世間が理解してくれれば、多くのゲストの手間は省け、旅情は溢れることだろう。