●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2015年11月号
9月も半ばを過ぎた頃、夕方、あるいは朝早くに桟橋へ行くと、島の太公望たちが毎日のように竿を振っている。
桟橋周辺にミジュンが群れ集っているからだ。
沖縄でミジュンと呼ばれる魚には2種類あって、県内の一部漁港で大量に水揚げされると話題になるのはヤマトミズンなのに対し、水納島でいうミジュンは本名をミズンといい、ニシン亜科に属する10cmほどの鰯に似た小魚だ。
それが毎年たいてい8月後半から10月にかけて、島の桟橋周辺で大群を成す。
年によってその量や滞在期間は多少変わるけれど、かなりの数が2ヶ月以上に渡って居つく、というのがここ3年くらい続いている。
今年も夏の終わり頃に群れ始め、毎日仕事をしながら見ていた島の人たちは、観光客が少し減って手が空き始める9月半ば過ぎになると、いてもたってもいられなくなった。
ミジュンが島の桟橋に魚群を作り始めると、それとそっくりなハララーと島で呼ばれる魚(本名ヤクシマイワシ)たちも同じような場所に群れ始める。
とはいえ似たような小魚なので、釣れさえすればどっちでもいいじゃん、と思っていたところ、サビキセットに食いつくのはほぼミジュン、ウロコが取りやすくてさばきやすいのもミジュン、ということを知るにいたり、釣るなら断然ミジュン!となった。
島の太公望たちは驚くべきことに、桟橋の上から群れを一瞥するだけで、眼下で群れている群れがミジュンなのかハララーなのか見分けることができる。
残念ながら私はまだその域には達していないのだけれど、ミジュン釣りをしに桟橋まで行くと、たいてい誰かしらいるから、アドバイスに従い竿を振ることができるのだ。
竿といっても、釣具屋の店頭で売られているおもちゃのようなリール付き竿とサビキセットだけの簡単なもので、餌も使わずテクニックもいらず、入れ食いになればほんの小1時間で50匹以上釣ることもでき、これまで釣りなどやったことがない人でも十分楽しめる。
まさにサルでもできる釣りだから、興味をお持ちになったゲストも釣りができるように、秋になると我が家には必ずミジュン釣りセットが常備されるようになった。
釣ったミジュンは、ウロコを取って三枚におろし、刺身で食べるのが最高だ。
でもさすがに毎日刺身だと面倒だし飽きるので、丸のまま素揚げにして塩を振ってそのままいただくもよし、南蛮漬けやマリネにして一週間くらい楽しむもよし、どうやっていただいてもお酒がすすむ肴になる。
三枚におろしたあとの骨を揚げた骨せんべいもまた絶品だ。
最近私がハマッているのが、ミジュンを使ったアンチョビもどき作り。
これなら釣りすぎて困ることもないし、冷蔵庫に入れておけば1年中好きな時に楽しむことができる。
島の太公望たちがミジュンそのものを楽しむのは最初だけで、その後はミジュンを生餌にして仕掛けを作り、大物(ダツ、アオヤガラ、カスミアジなど)を狙うようになる。
釣ったミジュンを生かしておくために、わざわざ生簀を自作するヒトもいる。
様々な形で島の人たちを楽しませてくれるミジュン。
たまたまそのとき居合わせた島内宿泊客も、ミジュンの楽しみを知るや、毎年季節を見計らってリピートする方もいるほどだ。
季節の風物詩として、海からの贈り物として、これからもずっとミジュンが水納島で楽しめるように祈りつつ、この秋も桟橋に通う私なのだった。