●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2017年1月号
水納島では毎年晩秋になると、PTA視察研修が行われる。
実態は「視察研修」というよりも、オトナの社会見学ではある。
視察先の選定にあたっては学校の先生から候補地がいくつか提示され、主だったPTAに相談して決定しているようだ。
私が島に引っ越してきたときからすでに学校行事のひとつとして確固たる地位を築いていたから、少なくとも22年以上続いているロングランイベントだ。
これまでの視察先は、大きな橋が架かって本島と陸続きになった離島や、まだ橋が繋がっていない離島、植物園や動物園など、日帰りで行き来できる場所という制限はありながらも様々で、年によってはけっこう興味深い場所もある。
けれどそもそも団体旅行が苦手な私は、普段自分で行ける場所へ何も混んでいる休日を選んでわざわざ…と思ってしまうためなかなか参加する気にならず、20年間ずっと不参加で通してきた。
そして昨年の行き先は世界遺産の中城(なかぐすく)城址と、その年オープンしたばかりのイオンモール「ライカム」。
中城城跡は過去に訪れたことがあるし、イオンモールはオープン早々の混雑が終了するであろう3年後くらいに行こうと思っていた場所でもあるから、いつもだったら例年どおり迷わず不参加を決め込むところである。
ところが在任4年目とお付き合いが長くなっていた教頭先生から熱烈なお誘いを受け、ついに重い腰を上げることになってしまった。
うれしはずかし、島民になって初めてのPTA視察研修だ。
当日は参加者全員が朝イチの連絡船で島を出発。
本島側の港ではあらかじめ町役場からマイクロバスをレンタルしてあるので、参加者全員がその後1台の車で移動する。
本島中部にある中城城址まで、高速道路を使っても2時間近くかかるものの、道中では当時島唯一の中学生のMCによるなぞなぞ大会などの余興を楽しんでいるうちに、あっという間に中城城址に到着。
晴れ渡る空の下、東シナ海も太平洋も見渡せる絶景の城跡をガイド付きで見学することができ、とっても得した気分だった。
城跡見学後は近くにある洒落たホテルのビュッフェでランチ。
腹がくちた後は、巨大ショッピングモールに行ってしばらく自由行動という予定だ。
混雑を覚悟していたのだけれど、クリスマス前の休日にもかかわらずウワサほどには混んでいないことがわかり、その後個人的に再訪してみようという気になれたのは視察研修のおかげだったりする。
思いのほか有意義な時間を過ごすことができた視察研修初体験。
しかし残念なことに高齢化が進み、年配の方々の参加がほとんどなくなってしまった。
車に乗っての長距離の移動が、おばあたちにはしんどくなっているようなのだ
それをふまえて今年の視察研修は、装いも新たに島内でビーチパーテイーをすることになってしまった。
おばあたちはそれなりに楽しめたようではある。
とはいえお土地柄ビーチが目に新鮮に映るわけじゃなし、普段お客さんにふるまっているバーベキューが目新しいわけじゃなし。
参加率向上という意味では良かったのかもしれないけれど、「視察研修」という本来の意味はもはやどこにも見当たらない。
たった一度とはいえ、ともかくもまだ「視察研修」だったうちに参加することができてよかった。熱烈に勧誘してくださった前教頭先生に、今さらながら感謝しているのだった。