●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2020年10月号
8月以降やたらと台風ラッシュになった今夏、8月末の台風9号の進路が明らかになってくると、
「台風、旧盆を直撃!」
というニュースが沖縄本島地方でもちきりになった。
お盆も新暦に則る本土の多くの地域とは違い、何かと旧暦に基づいて行事がとり行われる沖縄では、お盆もまた旧暦で行われる。
そして今年はその旧盆が新暦の9月の初めにあたり、そこにちょうど強大化が予想される台風が沖縄本島直撃コースに乗ってしまったのだ。
沖縄でお盆といえば、県民にとってソウルイベントといっていいほどのひときわ重要な行事で、諸々の事情で行事が新暦ベースになることが多い水納島でも、お盆はやはり旧暦で行われる。
新暦上の日付は年によって前後するとはいえ、観光業で生きる水納島の皆さんにとってはいずれにしろ間違いなく繁忙期に当たる。
それでも親族はやってくるし、それに合わせて島民側は、あの世この世の親族を供するべく、きちんと準備して臨むのが恒例だ。
供物のためのご馳走は、ひと昔前なら揚げ物やら煮物やらを各家庭で調理するのが当たり前だった。ところが近年ではスーパーなどで用意されるオードブルを予約注文しておくという、便利かつ簡易な方法がもっぱらとなっている。
そのため旧盆期間中になると、スーパーの店頭には旧盆用オードブル特設販売場が設けられ、揚げ物やら煮物やらがビッシリ詰め込まれたオードブルセットが所狭しと陳列されているほどだ。
ひとつひとつのオードブルセットは直径50cmはある大きな円形の容器で、供物とはいえこんな大量の揚げ物をどうやって消費するの?と尋ねたくなるほどのボリュームがスタンダードだ。
ところが今年はおりからのコロナ禍で、ご先祖のもとに集まる親族の行き来が減少傾向ということもあってか、巨大ボリュームが定番だったオードブルセットに、少人数用ミニサイズ(それでもデカいけど…)という、沖縄らしからぬ商品も観られるようになっていた。
一方水納島では、世間がそうやって便利&簡易なオードブルセットをお盆の供物にすることが当たり前になってきていても、しばらく前までは揚げ物から煮物から、昔ながらの全品お手製の供物をキチンと用意していた。
しかし過疎高齢化によるマンパワー減少には勝てず、近年ではオードブルを本島から取り寄せるのが恒例になりつつあって、今年のお盆もその手配がなされていた。
そのお盆に、台風直撃予報。
連絡船が欠航となればオードブルの取り寄せなどできるはずはなく、現世に生きる親族も来島はかなわない。それでもお盆だから、あちらの世のご先祖様たちは、例年どおりこの世にちょっとばかりお立ち寄りになる。
そのため水納島の各家では昔ながらのスタイルで、例年どおり供物をすべて家庭内で用意しなければならなくなったのだった。
コロナ禍の今年は、お年寄りを抱える家によっては例年に比べて規模縮小予定になっているところもあるなど、当初からやや寂しいお盆になりそうだった。
かつて平成直前のお正月が天皇陛下療養中につき「自粛」となって以後、正月も通常営業する店舗が出てきたりして「日本のお正月」の様子が随分変わったように、ソウルイベントお盆といえども、このコロナ禍&台風襲来による規模縮小をきっかけに、今後はさらに形を変えたものになっていくのかもしれない。
でも例年同様各家庭から頂戴した豪華絢爛なウサンデー(供物の下げ膳)を見るかぎり、少なくとも水納島では当面その心配は無いことを確信したのだった。