●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

269回.あの「載せ配」にかえりたい

月刊アクアネット2025年10月号

 ダイビングを趣味にすると、いろいろと必要な器材が増えてくる。

 そして必要な器材を荷物にすると、これが相当大きく重くなってしまう。

 車のトランクにいつも器材を詰め込んでいる沖縄県民ダイバーならともかく、本土から沖縄までダイビング旅行をするとなると、そんな荷物を携えて公共交通機関を利用するのは大変なので、多くの方があらかじめ器材を現地まで送るようにしている。諸物価高騰のおり、配送料も沖縄までとなるとバカ高くなっているため、今のところ最安価格帯になっているゆうパックを選択する方が多い。

 ただし日本郵便の場合、品名記入欄がやけに小さいくせに記入内容へのこだわりはやたらと強く、今のご時世では「ダイビング器材」と記入しただけでは受け付けてもらえない。

 かといって品名をアヤフヤに書いてしまうと、窓口では一言も言っていなかった船便に勝手に回され、配達まで1週間ほどかかることもある。

 水納島の場合はさらにやっかいで、ゆうパックでも土日祝日の配達がなく、配達がある日でもその日の朝イチ便のみだから、その日午前中に郵便局に届いても、配達は(平日であれば)翌日ということになってしまう。

 そこに連絡船の欠航が重なろうものなら、送った本人が想像もしていない遅配になることもザラで、自身の到着前はおろか、滞在中にすら配達が間に合わないということもある。

 某南米大河の通販のように、当日配達OK!とか翌日配達!などというのが当たり前の都会暮らしの皆さんが「いくら沖縄の離島といったって4日もあれば届くでしょ」と高を括ってしまうと、思わぬ落とし穴が待っている。

当店のゲストにとってダイビング器材に次いで重要な荷物が、ご滞在中のためのお酒。せいぜい数泊のご予定なのに、いったいどれだけ飲むんだ?という量が届くこともしばしばで、シーズン中は写真のような酒入りの段ボール箱が各地の酒屋から月に何度も届く。もちろん水納島に限らず何であれ沖縄の離島に荷物を送る場合は、10日くらい余裕を見ておいたほうが安心だ。それを熟知している当店ゲストはかなり余裕をもってお酒を送ってこられるので、我が家はそれぞれご予定が異なるゲストのみなさんから届いたお酒で溢れ返ることになる。焼酎ならともかく冷酒やワインだとそのへんに放置しておくわけにもいかず、ついに酒用の冷蔵庫を購入する羽目になってしまったのだった。翌日配送OK!な都会なら、そのような冷蔵庫も無用なのだろうなぁ…。

 であれば、たとえゆうパックより高くついても、土日祝も配達してくれる他の宅配業者のほうがよほど便利ということになる。

 ただしゆうパックだったら郵便局に水納島御用達の配達スタッフがいてくれるおかげで、可能な範囲でいろいろと融通が利くようになっているのに対し、他の宅配業者となるとこれがなかなかうまくいかない。

 その昔のおおらかな時代には、連絡船の運航とタイミングが合わずとも、宅配業者が本島側の海運事務所に一声かけて荷物をターミナルに置いておき、後刻船員さんが船に乗せ、受け取る側が島の桟橋まで行く、もしくは誰かが家まで運んでくれる、不在なら誰かが預かってくれる、という昭和っぽい便利な状況があった。

 ところが巷間なにかと「セキュリティ上の問題」が取り沙汰されるようになって以来、宅配便に関しては、受け取る側が配送スタッフから連絡を受け、ちゃんと島で受け取るという確認をとってからでなければ、配送スタッフが連絡船に載せられないようになっている。

 携帯電話の時代とはいえ、仕事柄海の中にいることが多い我々の場合、島にいたとしても電話に出られないことがたびたびあるし、本島に出掛けている時に連絡があれば、わざわざ本島側の港で受け取って、本島から島の自宅まで自分で「配送」しなければならないこともちょくちょくある。

 他人の荷物とかかわることなどありえない都会では置き配システムがフツーになり、行政が置き配システムのための宅配ボックス設置のため補助金まで出すという話もあるそうだけど、離島の場合は昭和タイプの配送システム「載せ配」のほうがよっぽど便利だったのに…。

 世の中のシステムはなんであれ東京スタンダードに変わっていき、そして地方では、それまで便利だったものがどんどん失われていくのであった。