●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2005年8月号
那覇あたりで捕まえたタクシーの運転手さんに、水納島への連絡船の港まで、と告げると、
「あそこはハブが多いよ」
と言われることがあるらしい。
そう、たしかに水納島にはハブが多い。住民よりも。
一度も沖縄に来たことがない人でも、「ハブ」という蛇の名前は耳にしたことがあるはずだ。その毒の強さももちろんご存知であろう。
そんなハブが水納島にいると聞けば、誰でも尻ごみしてしまうに違いない。
かくいう私も、引っ越してきた当初は草むらでガサッという音がすればハブを疑い、蛇がにょろにょろしていたら、ハブハブ、と大騒ぎをしていた。
今では、草むらのガサッという音はたいていはオカガニで、昼間っから道路を横断しているのはアオダイショウだとわかるけど、島を訪れる観光客のみなさんは、誰もがかつての私同様に草むらの「ガサッ」にビックリしている。
実際のハブは、どんなにたくさん生息していようとも、会いたくてもそうそう出会える生き物ではない。
日中にはハブはほとんど出歩かないからだ。
ところが、チャボを飼い始め、雛が孵った頃からハブ遭遇率が一気に高くなった。
島のみんながいう「鳥を飼ったらハブを呼ぶよ」というのは本当だったのだ。
それまで家の周りでは3年間で1匹のハブも見なかったのに、その年は1年で4匹も見てしまった。
ハブがいた、ということでそのままにしておいたのでは、のちのちのその付近での生活に支障をきたす。
何をするにもハブの影におびえていなければならないからだ。
だから、ハブを見つけたら必ず殺すというのが島での鉄則である。
その実践編を目にして以来、我々もハブを見つけては抹殺するようになった。
そうして抹殺した4匹のうちの1匹は、なんと180cmもあった。ヘタをすると私は飲み込まれていたかも…。
噂を聞いた島のご婦人たちが翌日何人も見学にやってきたから、やはり歴代においてもストロング級にでかかったのだろう。
ところで、お泊りでダイビングをしに来ているお客さまは、ダイビングの記録をつけるために、夕食後に民宿から我が家まで街灯の少ない道を歩かなくてはならない。
いくら滅多に見かけることはないといっても夜は別である。しかもシーズン中ともなれば、夜間はハブが気ままに徘徊しているかもしれない。
だからゲストの皆さんには、ハブがいるかもしれないから懐中電灯で道を照らしてくださいね、と注意を促す。
すると時々思わぬ勘違いをされる方がいる。ハブを懐中電灯の光で撃退できるものと理解してしまうのだ。
懐中電灯はハブの存在に先に気づくためのものであって、けっして撃退するための武器ではないのでどうかお間違えのないように……。
ちなみに、我が家への道のりでハブに出会ったゲストは、過去10年間で1人だけ。
人口50人の島にハブ1000匹!!などとイタズラに不安を煽るむきもあるけれど、島でハブに会うよりも、都会で変質者に出会ったり、交通事故に遭うほうがよっぽど確率が高い。
といいつつ、今年はハブの目撃例が増えたので、島民総出で大掛かりな草刈をした。民家の近くや道路際に、ハブが隠れやすそうなところを作らないためだ。
おかげで島内がすっきりして気持ちがいい。ある意味ハブのおかげかもしれない……。