●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2008年10月号
パイナップルといえば、昔から知らぬ人とてないおなじみの果物である。
でも、パイナップルが畑で生っているところを見たことがある人は、果物の知名度ほどには多くはないようだ。
実際、沖縄に住むようになった18歳の頃に実際に目にするまで、私はパイナップルというのは土の中になるものだとばかり思っていた。
けれどなかには、パイナップルは木に生るものだと思い込んでいる人もいる。
沖縄の自然海岸に行くと必ず見られる植物、アダンをご存知だろうか。
イボイボがある曲がりくねった幹に、かなり鋭いトゲの生えた葉をつけた、3~4mくらいになる植物だ。
このアダン、季節を問わず実をつけるのだけれど、これがまあパイナップルそっくり。
果物は木になるものだと思っている人からすれば、沖縄の海辺にあるこのオレンジ色の実を見てしまえば、誰しもパイナップルと思ってしまうことだろう。
亜熱帯の海辺を彩るアダン。その実をパイナップルだと勘違いしてしまう気持ちもよくわかる。ヤシの木が自生していない沖縄の海辺には欠かせない、南国ムードの植物だ。
島の周り全体がほぼ自然海岸の水納島では、沖縄の海岸植物が自然のままに生えている。
そのため波打ち際から少し離れた海岸一帯ぐるりがアダン林になっていて、遠目にはパイナップルそっくりの実をたわわに実らせている。
残念ながら人が食すには適さないものの、この実はオカヤドカリやヤシガニの重要なエサになっており、ヤドカリたちが食べ残した部分はそのまま種になり、その場で芽吹くときもあれば、波にさらわれてどこかの海岸の打ち上げられ、新たな生息地で繁茂することもある。
ほぼ海辺といっていい我が家の庭の周りもやはりこのアダンが多く、新緑の季節ともなるとトゲの生えた葉が繁茂しすぎ、そんな葉に取り囲まれた家の周囲を歩けなくなるほどだ。
そのまま放っておくと大変なことになるから毎年大々的に伐採することになる。
伐採したアダンの幹を一箇所にまとめておくと、そこに根付いて元気に新たな葉を出してくるほど生命力は強いから、伐採後は離れた場所にキチンと捨てなければならない。
我が家にとっては困り者のこのアダン、その昔薪で火を起こしていた頃の水納島では、アダンの枯葉が焚きつけの際のチャッカマンとしてちょうどよかったそうだ(実際焚き火をするときに使ってみたら、天をも焦がす威力だったのでビックリした)。
当時の各家庭では毎日使うものだったので、アダンの枯葉を子供たちがセッセと拾い集める。
そうすると、アダン林の下生えがまるで里山のようにきっちり整備され、林の中には幾本も海へと続く小道ができていたという。
また八重山諸島では、アダンの葉で作ったぞうりや、食材としてアダンの新芽が売られている。それなりに役に立つものなのである。
昔ほど不便ではなくなった現在では、アダンの最も重要な役割は、亜熱帯沖縄のイメージの演出であるといえる。
青い海や白い砂浜をバックに、実のなったアダンがあるだけで、誰しも「ああ沖縄……」とウットリするような絵になるのだ。
それを意識してなのか、本島の西海岸沿いの街路樹にもたくさん使われている…
……と思ってよく見たら、アダンそっくりのタコノキだった。
アダンが生い茂る自然の海岸をつぶして道路を作ったうえに、小笠原固有種で、沖縄には本来存在しないはずのタコノキを植えているのだ。
これぞまさしく沖縄の環境行政、といえそうなその感覚にゲンナリしてしまったのだった。