●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2003年12月号
5、6年前のある日のこと、島内の方から「コンクリート打つから、だんなさんに来るように言ってね」という電話がかかってきた。
今だったらどういうことか理解できるけれど、当時は何のことやらさっぱりわからなかった。
でも電話の口調は有無を言わさぬものがあり、至極当然のことを伝えました、というように何の説明もなく切れてしまった。
実はその時島内で民宿を新築していて、建物の基礎のコンクリートを流す作業を島の青年全員による人海戦術で行う、ということだったのだ。
なにしろ離島であるから、生コン車を頼んだらそれを運ぶための台船(バージ)が必要で、仮に10万の生コン車であっても、結局50万円以上かかることになる。
そのためできるだけ経費を落とすために、人足も島内で調達し、できるだけ自分たちで作ってしまおうというわけだ。
そんな作業は当然生まれて初めての経験のだんな。
数日続いたその作業でだいたいの様子はわかったようだったが、毎日毎日へろへろになって帰ってきていた。
さっそくどうだったのか聞いてみると、いわゆる単純作業だそうな。
作業自体は面白くも何ともないものの、その作業に対するみんなのやり取りが楽しいらしい。
なにしろこういう離島で暮らしているだけあって、みんな一軒の家くらい軽く建てられるくらいの能力がある。
つまりみんながみんな棟梁なのである。
その棟梁たちがいう作業の段取りや実際の作業のやり方がそれぞれ微妙に異なるものだから、教えを乞う立場である初体験のだんなとしては、いったいどの人の意見を聞けばいいのか悩んでしまう。
コンクリートの硬軟ひとつとっても、そばにいる人によって「水をもっと足せ」「水が多すぎる」とアドバイスが180度違うのだ。
きっと、パーティ全員がリーダーである登山みたいなものなのだろう。
しかも施主さんの意向をまったく無視して、みんなで建築方法を議論していることもあるというからおもしろい。
東京なら3日で終わる道路工事が沖縄では3ヶ月かかる、という理由が少しばかりわかった気がした。
そんな作業も手元が見えなくなると終了で、その後は施主さんが夕食とお酒で労をねぎらう。
仕事はきつそうだが、一仕事を終えてみんなとお酒を飲むだんなが私としては本当はちょっぴりうらやましい。
その際、施主さんが気を遣って(のんべえなのを知っているから?)私にも声をかけてくれるのだが、さすがの私もそこまであつかましくはなれない。
家一軒規模の大掛かりな作業は最近ないけれど、屋根の吹き替えなど、時々声がかかってだんなは出かけていく。
そのたびに酔っ払って帰ってくるのを見て、私はひそかに、だんなの仕事量と飲む量は釣り合いが取れていないのではないか、と心配している。
どうみても働いた以上にビールを飲んでいる気がするのである。
それでも、我々がちょっとばかり大工仕事をしているときなど、いつでも手を貸すよと島の人たちは声をかけてくれる。
このようなほのぼのとした互助精神のことを沖縄では「ユイマール」と呼ぶ。
あ昔なら日本中どこでも見られたものなのだろうと、田舎に住む私はしみじみ思うのであった。