●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2009年7月号
梅雨も明け、夏本番の沖縄。
水納島のビーチには、これぞ沖縄というシーンを求めて大勢の観光客がやってくる。
彼らはたいていビーチにパラソルやサマーベッドを用意し、日焼け止めも塗って、ビーチにいる間はなるべく日陰で過ごそうとしているものの、帰る頃には真っ赤に日焼けしているのだった。
なかには世の美白ブームに逆行するように果敢にサンオイルを塗ったくっている人もいる。
そのチャレンジ精神は買うものの、今晩果たして眠れるのだろうか、と他人事ながら心配になるほど赤くなっていることが多い。
実際、沖縄では日焼けのし過ぎで病院に行く観光客が毎年何人もいるらしい。
学生の頃に沖縄本島で4年過ごした私は、そこでまず亜熱帯の日差しの強烈さを知った。
なにしろ入学早々の頃、学生寮から教室まで10分足らずの道のりを1週間通っただけで、腕時計の跡ができるくらいにばっちり日焼けしてしまったのだから。
けれど水納島に来て、さらに強烈な日差しを実感することになった。
引っ越してきた当初、割合頻繁に蒲団を干していたところ、あるときシーツを洗ってびっくりした。
ボロボロと裂けていくのだ。
どうやら強い日差しの下で繰り返し干したせいで、シーツの繊維が劣化してしまったようだ。
ダイビング器材も、忙しさにかまけてつい日差しの下に置きっぱなしにしておくと、あっという間にゴムの弾力が失われ、最後にはいろんなところが裂けてくるのだった。
もちろん地元の人たちは、そんな日差しとうまく付き合っている。
私が学生の頃、街中でバス停にぴったり寄り添う人が不思議でしょうがなかったのだけれど、日焼けしないように少しでも日陰に入っていたいということらしい。
水納島のビーチでも、沖縄の方々と本土からの観光客とでは遊び方が違う。日中は宿や木陰でのんびりしていて、日が傾きかけた頃にビーチに遊びに来るのが県民流だ。
そんな時子供たちは、Tシャツ短パンを水着の上に着たまま遊んでいる。
沖縄の人たちは黒い黒いと思われがちだが、意外に紫外線対策は入念なのである。
島の人たちだって、畑でも海歩きでも、長袖を着ていない人はいない。
けれどそんなふうにいろいろ工夫していても、少しずつ積み重なっていく日焼けで、島の人はみんな冬でも浅黒い。
私も引っ越してきた当初は冬になれば白くなり、「やっぱり、ナイチャー(本土出身の人の意)は違うね」と言われていたはずなんだけれど、最近は戻りが甘くなってきているようで、誰も言ってくれなくなってしまった。
これだけ色黒になると、ちょっとやそっとの日差しではまったくビクともしないお肌で便利ではあるものの、世の中の価値観とは真反対に向かっているに違いない。
それにしても、世間では猫も杓子もエコエコと騒いでいるくせに、お肌は美白だというのはどういうことだろう。
肉体労働をしつつ、海風や日差しにさらされ、シワシワで乾燥しているような漁師さんの肌のほうがよっぽど「エコ」なのではあるまいか。
60を過ぎてツルツル美白というのが、ヒトとして果たして本当に美しいのだろうか??
かくいう私は現在の仕事を始めるに際し、「シミ・シワおばあになる宣言」をだんなにしておいたところ、どうもそれが本当になる日が近づいているようだ(もうなってる?)。
アンチエイジングなんて騒いでいる世界には、絶対に戻れないのであった。