●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2010年7月号
沖縄ではすでに梅雨が明け、朝から蝉の大合唱という夏真盛り。
そんなときに水納島の畑を見ると、植わっているのは、ゴーヤー、ヘチマそしてトウガンくらいだろうか。夏は日差しが強すぎるので、露地栽培で作れる野菜はかなり限られるのだ。
15年前に私が水納島に引っ越してきたときは2月の半ばで、おりしも野菜の収穫期の真っ只中だった。
だからちょっと道を歩くと、いろいろな人から様々な野菜をもらってしまって、両手がふさがることもしばしば。
用事を済ます前に、ひとまず野菜を置くために我が家へUターンということもしょっちゅうだった。
いただいた野菜を食べてみて驚いた。
普段スーパーで買っているものと明らかに違うのだ。
茹でるときから勝手が違い、いつものような時間で茹でると柔らかくなりすぎる。本当にサッと軽く火を通すぐらいが丁度よい。
そんな茹で野菜の美味しいことといったら!
甘くて味が濃くて、何も味付けせずそのままムシャムシャ食べるのが最も美味しい。
冬の間はこと野菜に関しては完全に自給自足できる水納島でも、夏はどうしてもスーパーのお世話になる。
そのスーパーでこのところよく目にするようになったのが、水耕栽培で作った野菜だ。チンゲン菜のような葉野菜類に多い。
虫食いの跡がなく、サイズが揃っていて、ちょっとおしゃれなビニールに整然とパックされている。
けれども気のせいか一様に頼りない印象で、実際、同じように冷蔵庫に入れていても、島で採れた野菜に比べて日持ちがしない。
決定的に違うのは味で、その野菜独特の風味がほとんど感じられない。
良く言えばクセがなくて食べやすいということになるかもしれないが、物足りないことこのうえない。
そのような水耕栽培の現場風景を見てみると、ビニールハウスの中には養分が含まれた水が張ってあり、スポンジのようなものからヒョロヒョロと作物が伸びている。
気候の変化や病害虫の心配などがほとんどないから、安定した生産ができるのだろう。
けれど、いわば文字どおりの温室育ちであるこれらの野菜は、はたして本当に字義どおりの「野菜」なのだろうか。
野菜作りを始めて十数年たった今、何よりも重要だとしみじみ感じているのは土作り。
野菜が欲する栄養を含み、根が張りやすく、土壌生物がたくさん住めるような土を作れさえすれば、後は野菜たちが育ちやすいように、必要なときにその都度肥料を足してやったり、草をむしってやったり、少し手間をかけてやるだけで野菜本来の力で育っていく。
むろんのこと、一朝一夕で土がそうなってくれるものではない。
とはいえそうやって作る野菜は、実に味の濃いしっかりしたものになる。
また水納島では台風のおかげで定期的に畑にミネラルが補給されるし、露地で多少風に吹かれた方が、倒れないように根をしっかり張るようになることで、より多くの養分を吸収できるようになるはずだ。
水分だってのべつ幕なしに吸収できる状態よりも、メリハリがあったほうがいいのではないだろうか。
この季節、島のおばあたちは家で消費しきれないほどゴーヤーを作っているので、我々夫婦は毎年そのおこぼれに与っている。
露地栽培ならではの強烈な苦味は、夏の到来をしみじみと感じられる季節の味。
水耕栽培のゴーヤーでも、夏を感じられるのだろうか?