全長 14cmほど
メーテルリンクの名作「青い鳥」の影響もあってか、青色の鳥はとかく珍重される。
といってもそれは数少ないからこそであって、そこらじゅうに青い鳥がいるわけではない。
特に瑠璃と呼ばれる光沢ある美しい青色を呈する鳥さんはオオルリ、コルリ、そしてルリビタキの3種くらいのもので、それらはみな「幸せの青い鳥」として人気を集めている。
ワタシがこの幸せの青い鳥と人生初遭遇を果たしたのは、まだ旧我が家で暮らしていた頃のことで、冬場のジョギング中の出来事だった。
未舗装路をいつものように走っていると、5mほど前方に見慣れぬ小さな青い鳥の姿があった。
ジョギング中のこととて画像記録ツールはなにもなく、咄嗟になにをするでもなくただ走り続けていると、その青い鳥は道に沿って飛び、少し先に去った。
でもこちらの進行方向と同じだから、そのまま走り続けると再び青い鳥は前方へ。
何度か繰り返すことになったその様子は、傍から見れば青い鳥を追い求めるチルチルのようだったかもしれない…。
逃げても逃げてもワタシがついてくるものだから、いいかげん嫌気がさしたのか、最後はパッと遠いところへ飛び去ってしまった。
結局間近でつぶさに眺めたわけではなく、画像記録も残っていないから確たる証拠はないのだけれど、記憶が残っているうちに当時まだ被災していなかった「日本の野鳥」(山と渓谷社)で調べてみたところ、どうやらルリビタキのオスであることがわかった次第。
たしかに青かったし、なにやら不思議的幸せをもたらしそうな気配もあった。
そのシアワセはワタシから逃げていく一方だったけれど、冬の水納島にはルリビタキもやってくるとなれば、きっと近いうちに再会のチャンスがあるだろう…
…と期待し続けて10年、一度として幸せの青い鳥と再会することはなかった。
その間に台風で旧我が家の屋根は吹き飛び、同じく台風でボートは転覆し、オタマサは2度も大手術を受ける羽目になり…
…と踏んだり蹴ったりで青い鳥どころじゃなくなっていた2016年11月のこと。
時化のため連絡船が欠航していた日、午後になってからときおり日差しも出てきたので散歩をしていると、現我が家近くの沿道に見慣れぬ鳥の姿を見かけた。
10mと離れていないところにいたものの、当時はズーム機能に優れたコンデジを持っておらず、水中用のコンデジで撮ったらこれが限界。
そこで、無理矢理拡大。
この鳥さん、恥ずかしながら初見時には、これがルリビタキのメスなどとはまったく思いもよらなかった。
ちょうど枝の向こう側になっているため写真では見えないけれど、飛んでいる時に見えた尾羽はたしかに青かった。
我々へもたらされるシアワセなど、しょせん尾羽だけ青くらいのもの…ってことなのか。
でもメスであれ再会できたということは、青いオスともまた…
…と期待を膨らませてみたものの、ルリビタキとはそれから5年間ご無沙汰となってしまった。
3度目の遭遇は、コロナ禍でヒトの出入りがすっかり減少していた2021年11月のことだった。
リュウキュウアサギマダラが枝々に集団でぶら下がるほど冷え込んできた夕刻、ビールを美味しく飲むために灯台方面をテケテケ散歩していたところ、ジョウビタキに似た小型の野鳥が沿道の林から路上に舞い降りた。
ルリビタキだ!
今回はズーム機能ありのコンデジを手にしていたから、特徴的な尾羽の瑠璃色もバッチリ。
でもこうなると、前から、せめて横向きくらいは撮りたいところ。
しかしルリビタ子は、背中を見せながら少しずつ遠ざかっていく。
どっちにしろその方向が帰り道だから、なんとかこっそり近づこうと抜き足差し足で忍び寄っても、ルリビタ子は等距離を保ったまま先へ先へと移動していく。
逃げるのだったら両サイドの樹々の合間に逃げるだろうし、これはとりあえずエサ探しに夢中ってことなのかな?
そこで少しばかり強引に近づこうとしたら…
ルリビタ子はあっさり飛び去ってしまった。
過去2回の遭遇時と同様、今シーズンはもうこれっきり、また当分会えなくなるのだろうか。
…と思いきや。
灯台へと続く道から出て帰路についていたところ、当時まだ現役だったマサエ農園畑1号でルリビタキがエサを探していた。
ただ、↑この子は小雨覆のあたり(肩のあたり)が青味がかってるんですけど?
ひょっとしてこれは、オスの若鳥か?
ってことは、ルリビタ子じゃなくてルリビタオじゃないか。
さきほど路上で遭遇した子と同じ子なんだろうか?
翌日再び旧マサエ農園畑1号に行ってみると、オスの若鳥らしきほうが前日と同じようにエサ探しをしていた。
そして、このヤングオスはクチバシがこのように変な形になっていることに気がついた。
ルリビタキのクチバシって、こうなってるんでしたっけ?
いやいや、他の仲間たち同様、ちゃんと閉じますよねぇ?
気になったので、その日の午前中にルリビタキを見かけた場所に行ってみた。
すると…
やっぱちゃんと閉じてる。
また、こちらは小雨覆の羽の色が青っぽくなっていないところからして、メスだと思われる。
ということは、やはりこの時の水納島には、少なくともルリビタキが2羽いたのだ。
沖縄に渡ってくるルリビタキは少数派で、林の縁の暗いところにいることが多いために目に留まりにくいのだそうだ。
にもかかわらず一度に2羽確認できたかもしれないだなんて、なにげにスゴイかも。
そうはいってもルリビタキのこと、短期滞在で終わっちゃうかな…と思っていたら、それからひと月経っても…
学校のグランドでエサを探している姿が観られた(3羽目なのか同じ子なのかは不明)。
さらに年が明け、春になってそろそろ冬鳥たちとのお別れの季節になった頃、我が家の垣根にあるクワの枯れ木に、ちょこんと止まっているルリビタキの姿が。
この冬の間ずっと島にいたのか、それとも渡りの季節になって北上中の羽休めなのかは不明ながら、家の中からルリビタキが観られるだなんて、なんとゼータクなんでしょうか。
幸せの青い鳥というけれど、ルリビタキと出会えることそれ自体がシアワセだったりする。
そのシアワセ、また5年後10年後までおあずけになるのだろうなぁ…
…と思いきや、今年(2023年)もまた11月に、それもこれまで画像に残してきたルリビタキからすれば、思いがけず青い子の姿が!(冒頭の写真)
ガメ公の散歩時のことで、沿道の藪からヒョイと路上に降り立ってくれたものの一瞬のことだったから、たった1枚しか撮れなかった青い鳥。
この冬の間にもっともっと瑠璃色に変わるのかな?
…と思ったら、ルリビタキのオスは完熟ルリルリになるまで2年以上もかかるのだそうな。
ってことは、来年あたりまた飛来してくれたら、今度こそザ・ルリビタキと再会を果たせるかもしれない。
ついにシアワセが我が手に?
ちなみに今年もこのプチ青い鳥のオス以外に、若オスらしき色味のルリビタキにも何度か会っている。
本来沖縄県内ではレアなはずのルリビタキだというのに、頻繁と言ってもいいほどの遭遇頻度はフツーのことなのだろうか?
ところで、多士済々の当店ゲストには昔から野鳥を愛してやまない方もいらっしゃって、水納島で通年観られるヒバリのような鳥の正体がセッカである、ということを教えてくださったのもその方だ。
そんな野鳥ラブな方がとりわけ愛しておられるのが、このルリビタキだという。
野鳥を愛する一方、趣味で市民合唱団に参加されている彼は、オリジナルの合唱曲を作詞する機会があったそうで、先年ご来島時にその完成作品を拝見させていただいたことがある。
すてきなその曲のタイトルは…
「ルリビタキ」。
調べてみたところYouTubeにアップされていたから、ここで披露してしまおう(ご本人も歌っておられます)。
『みどりの風に』第2曲 ルリビタキ
(3分37秒のYouTube動画)
青い鳥は、その姿でも歌でも、人々に幸せをもたらしているのだった。