エビカニ倶楽部

バブルコーラルシュリンプ

Vir philippinensis

体長 15mm

 ミズタマサンゴ、もしくはタマゴヒレサンゴという名のサンゴがいる(英名はバブルコーラル)。

 沖縄の海で潜っていればごくごくフツーに観られるから、ダイビングを始めたばかりの頃には、何かの卵なの?と思った方も多いことだろう。

 そのミズタマサンゴをよく見ると…

 …バブルコーラルシュリンプがいる(矢印の先)。

 昔はアカヒゲカクレエビと一緒くたにされていたのだけれど、晴れて別種になった。

 そこまでは早かったのに、昔から有名なエビにもかかわらず、いまだに(2022年現在)和名はつけられていない。

 バブルコーラルシュリンプはミズタマサンゴが出す粘液やそれにくっつく小さなものを食べて暮らしているようで、ミズタマサンゴが元気でいるかぎり、食べ物に困ることはないようだ。

 そのため安住の地であるミズタマサンゴを探せばイチローの生涯打率くらいの割で見つけることができるうえに、わりと長い間同じ場所で見られるから、ついついゲストにガイドしてしまうエビでもある。

 かつてはゲストも、内心「またかよ」と思っていたことだろう。

 しかし近年はクラシカルアイが進む方々が多いこともあって、「見えない…」という声の方が多かったりする。

 見えない状態だと何もわからないかもしれないけれど、冒頭の写真のように最初から全身を出してくれているケースは稀で、たいていタマタマの間から上半身を出しているだけ、ということが多い。

 この状態に比べれば、わりと大きめの個体(メス)が全身を露わにしてくれているなんてシーンは絶好のチャンス。

 「見えない…」なんて言っている場合ではない。

 身を守るためにサンゴのタマタマの間に半身を隠しているというのに、全身を観たい(見せたい)がために指示棒などで無理矢理全身を出させるケースもなくはない。

 けれど無理矢理外に出されたエビがリラックスしているはずはなく、その目は恐怖に見開かれ、普段の様子とはいささか異なる表情の写真になるに違いない(冒頭の写真は最初から外に出ていたものです)。

 最初はサンゴのタマタマの間から半身を見せているだけだとしても、ずっと観ていると表に全身を出してくれることもある。

 上の動画のように、メスが全身を露わにしてくれていると、彼女が大切に抱えている卵を観ることができる(↓この写真は上の動画の個体ではありません)。

 これは小柄なメスだから常識的な量の卵だけど、大きめのメスになると卵祭りになっていることもある。

 お腹のほうに見えるのが現在抱卵中の卵で、頭の後ろにあるのは「次卵」と呼ばれるもの。電車のホームでお馴染みの「先発」「次発」「次々発」でいうところの次発にあたる。

 お腹に卵を大量に抱えていながら、次卵はもういつでもお腹へ移動OK状態になっているだなんて、彼女がエンドレス産卵マシーンなのか、それともパートナーがスーパー絶倫マシーンなのか…。

 バブルコーラルシュリンプは同じサンゴにペアで済んでいることが多く、大きめのメスがいれば、同じサンゴにたいていオスがにいる。

 ときには昼間から2人でイチャイチャしていることもある。

 大きめのメスに目を奪われ、オスの存在に気づかないまま無理矢理指示棒でメスをいじくり倒してしまうと、愛のひとときを過ごしている2人を引き剥がしてしまうことになるかもしれない。

 いらざる恨みを抱かれてしまわないようにするためにも、無闇にいじくるのは控えてあげよう。

 ところで、バブルコーラルシュリンプは今でもミズタマサンゴを探せばフツーに観られるエビだけど、まずそれ以外のサンゴでは観られない。

 ところが古いポジフィルムの海に潜降していたところ、↓このような写真を発掘(?)した。

 どう見てもバブルコーラルシュリンプにしか見えないエビが、オオハナサンゴで暮らしている!

 よく見るとハサミ脚が見当たらないし、本来立派な長さのヒゲも途中で切れてしまっているから、実はホーホーノテイだったのかもしれない。

 それでも、バブルコーラルシュリンプがオオハナサンゴにいるなんて…。

 …と思ったら、「サンゴ礁のエビハンドブック」の解説によると、

 稀にオオハナサンゴにつくこともある

 とある(原文では「オオハマサンゴ」となっているけど(第1刷版)、アカヒゲカクレエビの解説でもオオハマサンゴってなっているところからして、これはオオハナサンゴの誤植ですよね?)。

 ともかくも、稀とはいえこのサンゴにいることもあるのか、バブルコーラルシュリンプ…。

 …と思ったら、↑これとは別の時に撮ったフィルムにも、オオハナサンゴにバブルコーラルシュリンプがいた。

 昔はわりとオオハナサンゴにもいたんだろうか、バブルコーラルシュリンプ…。

 そりゃアカヒゲカクレエビと混同されていたのももっともだ。