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私がエビカニに興味を持ち始めた80年代後半の世の中には、エビやカニが多数掲載されている一般向け図鑑といえば、新星図書出版が刊行してくれていた「沖縄海中生物図鑑」シリーズの甲殻類編くらいのものだった。
現行最新図鑑と比べれば、掲載されているエビたちの学名や和名が随分古いものも多いから、今では図鑑としての役目はほとんど果たせなくなっている。
そんな昔の図鑑にも、アカホシカクレエビはニセアカホシカクレエビとともに当時すでに掲載されていたくらいだから、ポッと出の(?)エビたちに比べれば遥かに老舗の趣がある。
ただ、ニセアカホシカクレエビはともかく、アカホシカクレエビは当時から相当クセモノだった。
当時充てられていた種小名(holthuisi)がその後随分時を経てから異なる種類のものになっているくらいだから、何をもってその「種」とするのかというそもそもの最初から混乱していたのだろう。
なにしろ当時は、アカホシカクレエビは「沖縄には分布していない」とされていたのだ。
それでも前述の図鑑では「分布域に鑑みて沖縄にも生息しているはず」という素晴らしい主観のもとに、「沖縄海中生物」の図鑑に掲載してくれていたのである。
まぁ早い話が、たとえ和名は老舗でも、実際にその名のエビがどれなのかという肝心の研究は現在進行形だったために、アカデミズム変態社会でもかなり混乱していたのである。
そんなわけで、昔から頼みの綱の図鑑自体もよくわからないまま掲載していたくらいだから、詳らかなことなど我々凡百のシロウトが知りようもなかった。
ただし、ひとつだけハッキリ言えることがある。
現在(2022年)に比べれば遥かに、昔のほうがアカホシカクレエビを観る機会が多かった。
年がら年中いつでもどこでも観られるというわけではないし、年によって増減はあるにせよ、ここという時の「フツーにいる度」は今とは比べ物にならない。
なにしろ「ここという時」になれば…
…一カ所にこんなにたくさんいたこともあるほどだ(写真で確認できるだけで10匹いる)。
ナガレハナサンゴがどんどん衰退したために遭遇率がガクンと落ちてしまったニセアカホシカクレエビほどではないとはいえ、フィルムで写真を撮っていた↑この当時と比べると、「フツー度」が格段に下がっているのは間違いない。
ただ、今さらながら個人的に大きな問題が。
私がアカホシカクレエビ認定しているものたちは、ホントにアカホシカクレエビなんでしょうか……。
今さらながらで恐縮ながら、サイズや環境の違いによるのか、そもそもタイプが違うのか、冒頭に並べてあるように、撮った写真を見るとビミョーに違っているのだ。
小さい頃は模様が薄いのかな…と見当をつけてみたのだけれど…
ミズタマサンゴのタマタマと比較してこんなに小さくても、濃い子は濃い。
では拠り所が白っぽいと薄くなる傾向があるのかな…と思ったら…
ノーマルカラーでいることもあるから、もうわけがわからない。
もっとも水納島の場合、随分立派に育ったメスは、↓この色柄で統一されている気配がある。
赤星だけじゃなく、他の模様も赤く鮮やかでおめでたい色をしている。
腰(?)のあたりにある白い模様の周りの模様は、メスの場合は成長とともにボヤけてくるようで、これまで撮った写真を見るかぎりでは、腰のマークは↓こういう感じになっていると思われる。
フムフム、なるほど…と腰のマークに注目すると、ときにはこういうこともある。
これはエビヤドリムシという変態社会系寄生虫がついている状態。
エビの種類を問わず寄生するムシ(宿主ごとに種が異なるのかどうかは知らない)で、どういうわけだかアカホシカクレエビはこのムシに好まれる傾向がある。
このテのものを見たら鳥肌が…という方は、腰のマークチェックにはご用心あれ。
さて、大きく育っているメスは卵を抱えていることが多く、ヤギの枝に止まっているところを裏から覗いてみると、卵はこんな感じだ。
お腹にビッシリ。
アカホシカクレエビは基本的にサンゴ類やイソギンチャク類を拠り所にしていて、ときにはまとわりつき、ときには傍らの地面におり、ときには周りをプイ~ンと泳いでいる。
身重のママもプイーンと泳ぐ。
クリーナーでもあるので、クライアントが近寄ってきたぞ!と気づくと、やはりプイーンと泳いで威勢よく出迎えてくれることもある。
画像ではなかなかプイ~ン…感が出せないので、ひとつ動画で。
このようにとってもフットワークが軽いから、クマノミのようにイソギンチャク上で忙しげに動き回るクライアントさんでも、うまい具合いにタイミングを計ってチョコンと乗っかるアカホシカクレエビ。
ハナブサイソギンチャクなど、どちらかというと地味目の拠り所についていることが多いアカホシカクレエビなんだけど、きれいなヤギについてくれることもある。
アカホシカクレエビの仲間についてはさらに研究が進められ、今後新たなどんでん返しがあるかもしれないけれど、いつなんどき観られなくなるかもしれないという危機が間近に迫っているかもしれないことを考えれば、このようななんともゼータクなシーンを今のうちに楽しませてもらうにしくはない。