体長 5mm前後(撮影したことがあるもの限定)
まことに恐るべきことに、今の世の中には「ヨコエビガイドブック」なる図鑑まで出ている。
まだそれを購入するまでには至っていない私の浅薄な理解が及ぶところでは、ドロノミの仲間たちは、分類的には「ヨコエビの仲間」という大きなグループに含まれる。
なので本来ならドロノミたちもまた、ヨコエビの仲間の稿に含まれてしかるべき。
ただ、どういうわけか変態ダイバーの間では、「ヨコエビの仲間」のなかでドロノミだけがもてはやされているのだ。
「ヨコエビ」で画像検索してもヒットする画像はほとんど採集後や標本の写真であるのに対し、「ドロノミ」で検索しようものなら、多くの変態ダイバーさんたちが撮影した様々な美しい水中写真であふれかえる…
…ということからも、ドロノミのモテモテぶりがうかがえる。
たしかに一般的なヨコエビに比べ、小さいながらも存在感のあるポーズをしていることが多く、ヤギ類の枝間やウミエラの上で仁王立ちしている姿には、ただの虫ではない何かを感じさせるものがある。
というわけで当コーナーでもドロノミを別枠にしているわけだけど、私がドロノミの仲間だと思っているのはあくまでも個人のフィーリングでしかない。
そのためホントは別グループかもしれないし、実際ヨコエビの稿で紹介しているホヤの中のクリーチャーは、学名をご教示をいただいた際にたしかドロノミ科に属すものと教わった気もする。
ことほどさようにここで紹介する「ドロノミの仲間」の基準は多分にいいかげんで、顎のような触角を大きく左右に開いて堂々としたポーズをしているクリーチャー=ドロノミの仲間、という程度の認定だから、マジメにアテにしてしまわないようご注意を。
さてそのドロノミ、冒頭の写真のようなピンク色のものは、伊豆で潜っていた頃は多かった気がするけれど、水納島ではなかなか見当たらない。
というか、これまで水納島でドロノミを撮影したことがあるのは早春から春にかけてのまだ水が冷たい季節だけで、他の季節にはまったく撮っていない。
春にわりと深いところに行くと、刺胞動物系や海藻についていることが多く、ウミエラについているものは大小含めた団体様になっていることがちょくちょくある。
なんだかみんなで祈りを捧げているかのように見えるけど、こうして彼らは何をしているんだろう?
1匹に注目してみると、↓こんな姿形をしている。
小さな鎌脚は肉眼ではまったく見えないけれど、腕を左右に広げているように見える触角は肉眼でもかろうじて見え、このポーズが勇ましくカッコイイ。
水納島で私が観たことがあるのはこのように何か他の生き物についていることが多く、形もむしろアリジゴクを彷彿させるスタイルなもんだから、ドロノミという名はいったいどういう意味なんだろうと常々首を捻っていた。
一説にはこの名は泥の中にいるノミのような虫という意味だそうで、種類によっては泥っぽいところに暮らしているらしく、最初に分類学上名がつけられるもとになったものが不幸にも泥の中の住人だったということらしい(※不幸かどうかは個人の感想です)。
「泥」とはまったく無縁な、刺胞動物についているものザッと見てみよう。
泥とは無縁ではあるものの、わりと藻が生えやすい暮らしをしているのか、苔むしてビミョーに泥っぽく見える…。
もっとも、脱皮してしまえば…
それなりに美しくはあるものの、伊豆あたりでもてはやされているようなカラフルなものには出会えていない。
ところで、刺胞動物についているドロノミたちは、たいてい↑このように天に祈りを捧げているかのようなポーズをしている。
いったい何をしているのだろう?
天に向けて広げているように見える触角を観てみると…
…細い毛が密生している。
いつも天に祈るようなポーズをしているのは、これを使って流れてくる何かをゲットするためなのだろうか。
一方海藻についているものも、同じようなポーズをしている。
やはり流れてくる何かをゲットしようとしているのだろうか。
でも海藻についているものの場合、こういう食事をしていることもある。
なにやら固形物を食べているっぽい。
固形物が海藻の切れ端なのかなんなのか不明ながら、少なくとも流れてきたものには見えない。
海藻についていたわけではないものの、同じように固形物に執着しているように見えるものもいた。
白い塊状のものを抱え上げているように見えるこのドロノミは、何をしようとしているのだろう?
一寸にすら満たない虫の五分の魂を知るのはなかなかムツカシイけれど、わりとわかりやすいこともある。
これはたまたま2匹が重なっていたわけではなく、撮っている間はずっとこの状態のままで、横から見てみると…
大きいほうが鎌脚で小さいほうをガッチリキープしているように見える。
ドロノミの恋の儀式なのだろうか?
五分の魂の一部を垣間見たかも…。