エビカニ倶楽部

ガンガゼエビ

体長 20mm

 その昔、まだ変態社会情報が今じゃ考えられないくらいに乏しかった頃の私は、ガンガゼエビとはガンガゼカクレエビの同種異名と思っていた時期があった。

 ところがその後、ガンガゼカクレエビと比べるとガンガゼエビは紫色がより明るく、背中にも白線があるというところで容易に区別できる別種であることを知った(属まで違う)。

 しかも沖縄あたりなら、ガンガゼ類がいさえすれば、ごくごくフツーに観られるという。

 是非観たい、会いたい!

 ところが、沖縄では本来珍しいエビではないというのに、どういうわけか水納島では、ガンガゼカクレエビはいてもガンガゼエビがいない。

 探せど探せど見当たらない。

 巨匠コスゲさんが水納島で何度目かの夏を過ごされていたのは、そんなおりのことだった。

 ご存知のように巨匠は朝食前にビーチで1本、日中ボートで2本、また夕方にビーチで1本潜るというスケジュールをご滞在中毎日こなす方で、フイルム交換するときとご飯を食べるとき以外は海の中だから、1日の水中滞在時間がトータル8時間を超えることもザラだ。

 書いているだけでしょっぱくなりそうな塩漬けの日々を1週間ほども続け、しかもご滞在中は夜の  飲み会  ログ付けタイム にも参加される。

 そんなある晩のこと、彼は

 「ガンガゼについている紫色のエビをビーチで見ましたよ」

 とのたまった。

 私のエビカニアンテナはグルグル回った。

 さらに詳しく伺ったところ、それはガンガゼカクレエビではなく、どうやらガンガゼエビっぽい。

 彼に根掘り葉掘り聞きまくり、ビーチのどのあたりかという目星をつけ、次の日の夕方、いそいそとカメラを持って現地に直行(当時はお盆でもそのような余裕があったのだ)。

 するとそこには、期待どおりガンガゼエビが妖しく美しく紫色の光を放ちながら(※個人のイメージです)、ガンガゼ(トックリガンガゼモドキ)の刺の間をウロチョロしていた。

 ガンガゼエビと人生初遭遇♪

 私のことだから場所がわからず困っちゃうかも…と心配して様子を見に来てくれた巨匠に大きくOKサインを出し、ここぞとばかりにパシパシと撮っていたら、あっという間にフィルムを使い切ってしまった。

 しょうがないのでそのあとしばらく観察していると、ウニは棘の間にある叉棘と呼ばれるマジックハンドのようなものを使ってエビを攻撃している。

 ガンガゼはガンガゼで、エビにいてもらって何かいいことがあるのかなと思いきや、どうやらウニとしてはエビにいてほしくないようだ。

 ということは、利益が一方的な片利共生ということなのか…。

 現地ガイドがゲストに教えてもらうというのは本末転倒なのだけれど、うちはガンガゼエビと違って相利共生なのである。

 相身互い、持ちつ持たれつ。

 ま、当店の場合は持たれつのほうが大きいかもしれないけれど…。

 それはそうと、その後この時撮った写真をシゲシゲ眺めてみると、白いものが目立ち始めた50代の髪の毛のように白い棘もあるトックリガンガゼモドキについているガンガゼエビは、黒い棘にいるときよりも白い棘にいるときのほうがフォトジェニックであることに気がついた。

 ↑これよりは冒頭の写真のほうが明るいじゃないですか。

 また、どういうわけだかガンガゼエビは、冒頭の写真や↓この写真のように、ときとしてハサミを広げた状態で静止させている。

 ひょっとしてガンガゼエビはバルカン人だったり?(長寿と繁栄を)

 来たる再会の日に向けて、中指と薬指の間を開けられるよう、今から練習しておこう。