甲幅 10mm
変態社会黎明期の昔ではあっても、ビジュアル的に美しいものたちはわりと早くからその名を轟かせていた。
なかでもイソバナガニは、カラフルな色味がそもそも擬態であるという点で、図鑑やダイビング雑誌などでその存在を知って以来、個人的にベスト・オブ・ソックリ賞を授与していた。
その名のとおりイソバナガニはイソバナという(広い意味での)サンゴの1種に住んでいる。であれば、イソバナを丁寧に探せばそのうち見つけられるだろうと、このカニに賞を授与した私はたかをくくっていた。
ところがどっこい、当時の水納島は今に比べれば遥かにイソバナが多く、大きく育ったものを随所で見ることができたというのに、イソバナを探せど探せど一向にこのカニは見つからない…。
ひょっとして水納島には存在しないのだろうか。
そう思い始め、なかば諦めかけた頃に、ようやく見つけることができた。さすがベスト・オブ・ソックリ賞。
まぁそれにしても、このカニのイソバナとのそっくり度ときたら。
背中や脚の模様はイソバナのポリプの色…
そしてご丁寧にも頭の先にイソバナの枝を付けていたりすることもある。
真っ赤なイソバナは海中では地味に見え、そこにクリソツ在住しているイソバナガニも同じように地味な色に見えるから、サーチにはライトは欠かせない。
ただしたとえイソバナガニの姿形を見知ってはいても、そこにいるということをうっかり見逃してしまうくらいにそっくりなので、クラシカルアイでなおかつうっかり八兵衛なみの注意力しかない方だと、ガイドに示されても頭の上に「?」マークがポコポコポコと3つくらい並んで終わってしまうことだろう。
少なくとも、↓この写真でもカニの輪郭がわからない…という方は、今のうちにスッキリ諦めたほうがいい。
その点オレンジのヤギにいるものは、赤い体が目立っていることもある。
イソバナガニも住処に合わせ、オレンジに近い色になろうとしている感じはあるけれど、そのあたりは同じくイソバナ類に住むイソバナカクレエビの体色変化テクニック(?)のほうが優れているっぽい。
初めて目にするまでは随分時間がかかったというのに、その後はイソバナたちが元気だった頃までは、わりと出会う機会に恵まれるようになった。
ときにはこういうこともある。
イソバナにウミシダがついていて、イソバナガニがウミシダの脚とイソバナの橋渡し状態になっているところ。
このままだと「ウミシダガニ」になってしまうかも?
大きく育ったイソバナは十重二十重とまではいかずとも、幾重にも重なるようになるから、その内側をサーチするのは難しく、当初なかなか発見できなかったのは、そのため探しきれない部分のほうが多かったから、ということなのだろう。
その点、イソバナというイソバナが次々に傷めつけられて無くなってしまい、イソバナといえば少しずつ成長しては姿を消してしまうウチワ大のものくらいになってしまい、逆に隈なくサーチすることができるようになった。
サーチできるから出会う機会もあるにはあるのだけれど、イソバナが小さいからだろうか、かつてのように大きく育ったイソバナガニに出会う機会はほとんど無くなり、育ち始めの小さなものばかり。
小さい頃は個体数が多いのか、同じイソバナに何匹もついていることがあり、枝の分かれ目にいるのをよく目にする。
そのあたりを探せばわりと遭遇率は高いものの、↓このチビなどは…
…左右の脚の端から端まで3mmもないくらいだから、クラシカルアイの方には絶望的サイズではある。
それでもエリアを限定できれば、クラシカルアイでも見つけられるかもしれない。
さて、ホクトベラのチビターレが邪魔をしている↑この写真、イソバナガニはどこにいるでしょう?
ちなみに、手前で邪魔をしているホクトベラのチビターレで1cmほどです…。
これくらいのチビが順調に育ってくれれば、冒頭の写真のようにイソバナの枝をまたぐほどに育ったイソバナガニを観ることができるんだろうけど、イソバナが小ぶりだと捕食者のイソバナガニ発見率もアップしてしまうのか、たくさんついていたチビはいつしか姿を消してしまう。
やはりイソバナガニが天寿をまっとうするためには、立派に育ったイソバナが欠かせないのだろう。
イソバナが昔のように再びあちこちで大きく育ってくれれば…
オトナサイズと若サイズのツーショットなんていう、今じゃ考えられないシーンが再び観られるようになるかもしれない。