(Periclimenaeus colodactylus)
体長 10mm
昔はあれほど石の下のエビカニを探し求めていたこともある私は、今では基本的に石をめくってその下にいる何かを探し出すのを潔しとしない。
けっして興味がないわけではないし、むしろそこに潜む数々のクリーチャーたちはみんなツボ中のツボだ。
けれどそんなことをするヒトがごく限られていた昔ならいざ知らず、変態社会に市民権が与えられて以来誰も彼もが我も我もと石をめくりまくるようになっている今、それまで平和に限定パラダイス状態だった石の下のクリーチャーたちはどうなっているだろう。
ということを考えると、私まで石の下のパラダイスハカイダーの一員でいるわけにはいかない。
なので自分に対しては、メクリスト自戒令発令中なのだ。
…といいつつ、ゲストの変態メクリストの方々が発見するエビカニの恩恵には、ありがたく与かっていたりするんだけども。
というわけで、少なくともデジイチを使用して写真を撮るようになってから(2012年4月以降)は、私はメクリストから足を洗っている。
そのかわりに、一時期だんなが、1本のダイビングにつき石5枚限定制限でマイブームになっていたことがある。
クラシカルアイの自覚が出始め、見えている今のうちに…ということでもあったらしい。
その時に出会ったのが、冒頭の写真のエビだ。
だんなの眼には、ダニの親玉にしか見えなかったのも無理はない。
写真のエビはメスで、そのお腹には卵がビッシリ。
そのため腹部がボコンと膨らんでいるから、たしかにダニフォルムではある。
こんなエビなど、20年前なら日本中探しても知っているヒトなど1人もいなかったろうけれど、当時すでに世に出ていた「サンゴ礁のエビハンドブック」にはほぼほぼビンゴ!のエビが掲載されており、どうやらカイメンカクレエビの1種 Periclimenaeus colodactylus ぽい。
チャツボボヤ内で観られるカイメンカクレエビの1種 Periclimenaeus storchi と同属のようで、言われてみればたしかに体つきが似ている。
とはいえチャツボボヤはなんともわかりやすいホヤだけど、このダニの親玉エビときたら、石の下で奇妙奇天烈なものを住処にしているのだ。
驚いたことに↑これもホヤなのだそうで、群体性ネンエキボヤの仲間なのだという。
石の裏側でまるで通路のように群体を成長させていて、このエビはそれをホントに通路にして暮らしているようだ(矢印の先にハサミ脚の先が出てます)。
これが通常状態のようなのだけど、さすがにこれでは何が何やらわからないから、ちょっとばかし表に出てもらおうとすると…
もともと開いているのか、いじくっていたために破けちゃったのかは不明ながら、ダニの親玉はヒョコッと顔を出してから外に出てきたそうだ。
いずれにせよこれは不自然な状態のようで、彼女としては一刻も早く体を隠したいところなのだろう。
無理をしてもらいつつ撮ったものの、結局写せなかった大きい方のハサミ脚の先っちょはこんな感じ。
ちなみにオスは、卵を抱えない分体は細めながら、ハサミ脚はかなり立派なモノを備えている模様。
トンネル通路のような住処で暮らしながら、この立派なハサミを何に使っているんだろう?