甲長 10mm
小学生のころ潮干狩りが好きだったことは、ソメンヤドカリの稿でも触れたとおり。
家族で行く潮干狩りフィールドは、もっぱら木更津あたりだったと記憶している。
真夜中の2時ごろに埼玉を出発して朝早くに着き、ひと眠りしつつ潮が干くのを待って、バケツとスコップとタモ網を持って沖を目指すのだ。
なんで網と熊手じゃないのか、と不思議に思ってはいけない。だって目指すはイソギンチャク、ヒトデ、タツノオトシゴ、そしてもちろん子供のヒーロー・ヤドカリなのだから。
弟と私は、本来の目標物であるはずのアサリには一切目をくれず、食べることのできないモロモロの生き物を夢中になってひたすら捕っていた。
とりわけヤドカリは数が多く、狂ったように捕まえるのだけど、帰るときにはほとんどを逃がさなければならなかった。
水納島の裏浜に広がる干潟は潮干狩りには適していないけれど、干潮時に歩けば魅惑的な生き物たちにたくさん会える。
ヤドカリさんたちも数多く、このマダラヨコバサミもイヤというほど観られる。
もちろん人影を察知すると危険を感じて殻の中に引っ込んでしまうけれど、しばしジッとしていればすぐに殻から身を出すマダラヨコバサミ。
すると、同じように引っ込んでいたものたちがそこでもあそこでも…という具合に、ワラワラと動き始める。p>
マダラヨコバサミは他のヨコバサミ属の仲間同様潮間帯をもっぱらの暮らしの場にしているヤドカリで、水が干上がるという厳しい環境を生き抜くために、潮が干いている間、集団となって乾燥から身を守るという。p>
なので干潮時、水溜まりですらなくなりつつある窪みにウミニナやゴマフニナといった貝殻が不自然に集まっていれば、それは間違いなくヤドカリさんたちで、頻度的にマダラヨコバサミである可能性が高い。
そのままじっと待っていればマダラヨコバサミが動き出すとはいえ、子供の頃ならいざ知らず、年を経るとそのように屈んだ姿勢でジッとしているというのは、膝や腰にたいそう負担がかかってしまう。
しかもそうまでしてマダラヨコバサミが動き始めるのを待っていても、最大水深わずか2~3㎝ほどの水溜まりではカメラのレンズ面すら水中に浸すことができないから、写真を撮るとなると水面越しになってしまう。
その点海中で出会えれば観察も撮影も楽チンなことこのうえないのだけれど、なにぶん潮間帯メインのヤドカリさんのこと、ダイビング中に出会うチャンスといえば、ビーチエントリーをした際に桟橋のコンクリートの壁についているところを観るくらいが関の山だ。
壁際に居座ったままだから後ろ向きでしか撮れない…。
結局、ヤラセをしつつ干潟で水面越しに撮らせてもらうのが、一番の近道ということになる。
ヤドカリさんには負担を強いてしまうとはいえ、いっぱい捕ってきたはいいけど飼育方法を知らないまま飼ってしまい、結局ひと月と保たせられなかった子供の頃のことを思えば、生命に別条がないだけ環境に優しい?