甲幅 20mm
ツノメガニとともに、加速装置付き高速走法でビーチの酔客を右往左往させるミナミスナガニ。
でも彼らはのべつまくなしに走り回ってばかりいるわけではなく、身に危険が迫っていなければのどかに暮らしている。
これは、巣穴の傍で、掘った砂を抱えて何かをしているところ(何をしていたのかは不明)。
とはいえ夜行性の彼らのこと、その姿を日の光の下で観ようと思うと、早朝やアコークロ―の時間帯に浜辺にいる必要がある。
そういう時間帯に姿を見てばかりいるからだろうか、彼らには黄昏時ならではの感傷的なイメージもある。
これを甲殻類学会では「センチメンタル・ガー二―」という(ウソです)。
たとえカニ本体の姿が見えなくても、波打ち際にほど近い砂浜にポコポコ開いた穴から、シュッ…シュッ…と砂が飛び出てくることがある。
ミナミスナガニが巣穴を掘っているのだ。
潮が引いた後のフラットになっている砂上にランダムにばら撒かれている砂が、ミナミスナガニが巣穴から「ワッセ、ワッセ…」と掘り出して外に飛ばしたものだ。
いつも巣穴の中で作業をしているから、どのように砂を投げ飛ばしているのかよくわからないのだけれど、そのピッチはけっこう速い。
潮が満ちてくれば水中に没してしまうあたりに穴を開けているところをみると、また満ちてくれば穴が埋まり、再び掘り返す…ということを繰り返しているのだろうか。
世間を騒がせた軽石が砂浜一面に漂着していた昨秋(2021年)、迷惑を蒙っていたのは彼らも同様で、本来なら砂だけを取り払えばいいところ、軽石をクリアにする作業まで加わっていたようだ。
穴掘り作業は、曇天で照度が低ければ日中でもやっていることがあるけれど、ピーカンの真昼間に見かけることはまずないといっていい。
おそらく真夏の日中は、シエスタよろしく巣穴でゆっくり昼寝を決め込んでいるのだろう。
そういえば、ビーチの砂移動工事が実施されていた際、巨大ユンボが掘り返す場から、四方八方に高速走法で逃げ回る姿があった。
工事で巣穴を破壊されたミナミスナガニたちが、突然の天変地異に逃げ惑っていたのだ。
ミナミスナガニにとっては迷惑以外のナニモノでもなかっただろうけど、予想外に多いその数には驚いた。
普段姿が見えないだけで、砂浜の下ではそこらじゅうに彼らが潜んでいるらしい。
「幽霊ガニ」の異名もナットク。