甲長 8mm (写真は4mmほど)
その昔水族館に勤めていたころ、深海魚展という特別展示をやったことがあった。
特別展示というのは、館内の空きスペースを使っておこなう短期間の展示である。
深海魚展では、深海魚に加え深海に住む甲殻類も展示した。
今でこそ深海に特化した水族館があるほどに深海に住まう生物の展示は一般化しているけれど、低水温&低照度という特殊環境に暮らしている深海生物は本来取り扱いが難しく、せっかく水族館までやって来ても、展示する前に死んでしまうものが少なからずいた。
水族館ではある程度以上の大きさがないと一般社会にお住いのお客さんの目にとまらないので、あえて小さいものを見せるという意図がないかぎり、取り扱う生き物は7~8cm以上の大きさのものになる。
なので深海魚展で用意する深海の甲殻類も、イズミエビ、アカザエビ、大きめのチュウコシオリエビの仲間といった甲殻類になる。
それらが志半ばで惜しくも死んでしまうと、死んだからといって捨てるに忍びず、むしろ見方を変えれば獲れ獲れピチピチの新鮮素材でもある。
実際に塩茹でにして食べたらとっても美味しかった…というのはもちろんここだけの話。
ともかくそんなわけで、「チュウコシオリエビ」という名には昔から馴染みがあったこともあり、アナモリチュウコシオリエビという名前にも違和感はまったくなかった。
ロボコンにこの和名がつけられたのは、その存在が知られるようになってから随分のちのことなんだけど、まだロボコンという通称すら一般的ではなかった頃に、ハサミ脚の模様も色味もロボコンとはかなり異なるコシオリエビをだんなが発見していた。
わりと深いところで、アナモリチュウコシオリエビに比べると大きく見えたようだ。
ただ、アナモリチュウコシオリエビという和名すらない当時のこと、この不明コシオリエビの正体など、情報僻地在の我々にわかるはずはなかった。
正体はわからずとも、わりと深めの岩肌から顔を覗かせている、ということがわかってからは、私にも遭遇チャンスが訪れた。
アナモリチュウコシオリエビよりもさらに身を乗り出しているのは、深くて照度が低いからだろうか。
ときには全身をさらけ出していることもある。
やがてデジイチで写真を撮るようになる頃には、すでにこのコシオリエビにも「ミヤビチュウコシオリエビ」という和名がつけられていた。
ただしその後出会いのチャンスはさほどなく、同じく深場で出会った↓この子が、今のところデジイチで撮った最初で最後のミヤビちゃんになっている。
いずれにせよ、深いところにいるせいか、巣穴がカイメンなどのカラフルな付着生物で彩られていることがないため、ビジュアル的に「おっ!」となるシチュエーションではなかなか観られないミヤビチュウコシオリエビ。
ところが、デジイチで撮るようになってからのだんなが、水深20mちょいくらいの砂底の根で出会ったかなり小ぶりなミヤビちゃんは、ひと味違っていた(冒頭の写真)。
砂が白く明るいところにいるためだろうか、体の紅白のコントラストが際立って美しく見える。
これだったら、たとえ巣穴がカラフルに彩られていなくとも、単体でアピールできそう。
だからといって、そういう環境でおいそれと見つかるわけではないけれど。