体長 25mm
雑誌か何かで初めてこのオドリカクレエビの存在を知り、なんとか発見したいなあ、と思い続けていた日々があった。
だからといって前世紀のことなので情報を入手するすべなどほとんどなく、その後もなかなか見ることができずにいたところ、私が悔しがることを見越したKINDON(当時は水納島在)から
「オドリカクレエビ見たで~」
と自慢げに聞かされ、彼の期待通り悔しい思いをすることとなってしまった。
エビ・カニ好きを自負する私が不覚にもこのエビを発見できなかったのは、他のカクレエビ系に比べ、彼らが少々深いところに住んでいるからだった。
水深30m以深の砂地で観られるイソギンチャク類をチェックすればわりとちょくちょく出会えるということがわかり、その後は目にする機会が増えた。
肉眼で観るイメージはハサミのあたりが白く目立ち、全体的に白い模様のエビという感じ。
ところが写真でじっくり眺めてみると、手足の先や尾に印象的に控えめな紫のカラーリングが施されていることに気づく。
紫好きの私としては、ここは見逃せない。
卵を抱えるほど大きく育っているメスでは白い斑紋が増え、ますます白い模様のエビ感が強まるけれど、やはり脚先まで紫になっている。
このように何かにピトッ…とついているとフツーのカクレエビっぽいし…
時には地べたに佇んでいることもあるオドリカクレエビ。
これだけを見ると名前の由来がさっぱりわからないところながら、実際に海中で目にすると、その名のとおり彼らはたしかに踊っている。
静止画像じゃわからないけど、自らがクリーナーであることをアピールするためなのか、何かを抱え込むように左右のハサミ脚を体の前で組み合わせ、ハサミ脚も体も左右にフリフリしながらフワ~ンと泳いでいる様子が、踊っているように見えるのだ。
↑このオドリカクレエビがついているのはパイプウニで、こういうシチュエーションはフツーはあり得ない。
おそらくこれは死んだばかりで砂底に転がっていた棘付きの殻に、たまたまオドリカクレエビがついていた状態と思われる(なにしろフィルムで撮っていた相当昔の写真なので記憶がない)。
スリムな個体だけではなく、卵を抱えたメスまでプイ~ン……
しかも拠り所にしているイソギンチャクから随分離れてフリフリフラフラピヨヨヨヨ~ン…と軽快に動きまくり、カメラをクリーニングしようとどんどん近づいてくるからかなり撮りづらい。
近縁のアカホシカクレエビなどもおなじようにプイ~ンと泳いだりするけれど、さほど持続時間はなく、すぐに拠り所に着地するので比較的撮りやすい。
ところがオドリカクレエビときたら、もうわかったから少しは落ち着いて!と訴えかけたくなるほどいつまでもプイ~ンプイ~ンと泳ぎ続ける。
カクレエビの仲間の中では、最も撮影しづらいエビといっていい(※個人の感想です)。
ところでこのテのエビたちがプイ~ンと泳ぐ際には、お腹の下にズラリと並んでいる腹肢を使っている(矢印の先)。
これを高速でピロピロピロピロ…と動かすことによって、推力を得ているのだ。
例えていうなら腹筋運動を続けざまにやっているようなもの(< そうなの?)。となると航続距離はそれほどなさそうに見えるのに、オドリカクレエビの場合は相当行動範囲が広い。
行動範囲が広いだけではなく、他のカクレエビ系に比べると宿主への執着が小さいのか、(ダイバーに邪魔されて)少しでも気分を害すると、観ている前であっさりとそこから旅立ってしまう。
オドリカクレエビというよりも、むしろサスライカクレエビといったところだ。
しかし彼らにしてみれば、よりどころであるイソギンチャクから離れるのは、相当な危険を伴うことであるのは間違いない。
なので自由遊泳中であっても、めぼしい何かがあればとりあえず寄り添うようだ。
そのため、拠り所にも何にもならなそうな海藻についていることもあれば…
…砂地にぽつんと顔を出しているトンガリホタテウミヘビについていることもある(目のところ)。
トンガリホタテとしては痒いところに手が届く奇跡の到来にご満悦ってところだろうけど、いくらクリーナーといってもオドリカクレエビにとってこの魚が安住の拠り所になるはずがないし、クリーニングをするための出張ケアサービスというわけでもないはず。
どこかでダイバーにいじめられて気分を害し、旅に出たのはいいけれど、さすらいの果てにほうほうの体でたどり着いた…ということだろうか。
彼らを観察する際は、彼らが気分を害して拠り所から旅立ってしまわないよう、そっと気遣ってあげよう。