甲長 50mm
オニヤドカリの仲間の中では、これまでで最も遭遇回数が多いオキナワオニヤドカリ。
ところがフィルム時代を含めたこれまで、一度として画像記録を残せたことはなかった。
なぜか。
それは、彼らの居場所がリーフ上の浅いところだから。
そのうえ夜行性の彼らは日中ほぼほぼ岩穴に穿たれた狭い穴の奥に身を潜めているから、たとえスノーケリングでリーフ上を泳いでいたとしても、そういう場所をサーチしなければ出会う機会はほとんどない。
にもかかわらず、オニヤドカリの仲間のうちで最も遭遇頻度が高いのはなぜか。
今ではもう時効となって世知辛い世の中から罪を問われることはないだろうから正直に言うと、その昔民宿大城のおじいから民宿でお客さんに出すためのサザエの注文を受けては、海へと繰り出していたものだった。
シーズン中のお客様用だから、5個や10個で賄えるはずはなく、毎回まとまった数をリクエストされる。
当時はサザエも豊富だったのでその都度期待に応えることができてはいたんだけど、そうやって義務感込みでサザエサーチをしていると、たまにオキナワオニヤドカリの罠にハマってしまうのである。
サザエに比べれば遥かに強靭な足腰でガッチリ岩肌をホールドしているから、そうやすやすとは穴奥から引きずり出すことができないオキナワオニヤドカリ。
慣れてくると、殻に軽くタッチしたときの「ゴソゴソ…」という身動きでそれがヤドカリであることがわかるようになるものの、当初はなりふり構わず穴奥から引きずり出そうとしていた。
サザエと信じて疑わず苦労の果てに穴奥から取り出してみれば、開けてビックリ玉手箱、このビッグでヘアリーなオキナワオニヤドカリでした…ということになる。
宿の貝殻はサザエのオトナサイズだから、ヤドカリ自体もけっこうでっかく、おまけに毛むくじゃらなので、何も知らずにサザエと信じて手にした貝殻からこんな大きなヤドカリが身を乗り出していたら、かなりのインパクトを味わえるかもしれない。
ともかくそんなわけで出会う機会といえばサザエ生息密度調査時くらいのものだから、地元沖縄の名を冠したオニヤドカリであるにもかかわらず、これまでまったく一度も画像記録を残したことが無かった。
今秋(2023年)、そんなオキナワオニヤドカリを撮影すべく、浅いリーフ上をコンデジ片手に泳いでみることにした。
サザエ生息密度調査(調査だけなので見てるだけですから)のついでだったので、疑わしいものを取り出してみたところ、ビンゴ!
この機会にとばかりパシャパシャ撮らせてもらった。
多くのヤドカリたちは一度貝殻に身を引っ込めるとなかなか出てこないのに、でかいからかなんなのかオキナワオニヤドカリは警戒心が随分希薄で、殻の中に縮こまっている時間が極端に短い。
おかげで殻から出てくるのを待つ必要がまったくなかったのはよかったものの、ポンと貝殻を置くとすぐさま暗がりを求めて逃げていくから、落ち着きがないように見えなくもない(そりゃ身の危険を感じているのだから当たり前だけど)。
ただしその瞳は、アミメオニヤドカリとは違ってなんだか優しげだ。
この瞳が、夜中にはどういうことになっているのだろう?
なにはともあれ、今さらながらの初オキナワオニヤドカリ。
この姿を目にするだけで、前世紀のサザエ漁を懐かしく思い出せるのだった(※時効です)。