甲幅 20mm
種類が多いサンゴガニの仲間のうち、実際に海中で観て一番美しいと私が思っているのが、このオオアカホシサンゴガニだ。
また、個体数の多さと大きさ、そして観やすさという点でも、オオアカホシサンゴガニは断トツナンバーワンと言っていい。
もっぱら潮通しのいいリーフエッジ付近のヘラジカハナヤサイサンゴ類にのみ住んでいるので、水深をほとんど気にする必要がない浅いところだし、サンゴの枝間を覗けばたいていいてくれるし、枝間が広いサンゴだから観察もしやすいという、ダイバーに観てもらうためにいるかのようなサンゴガニなのである。
その広い枝間から覗き見る姿は、白地に赤い水玉模様がハデハデで、どんなうっかり八兵衛でも見逃すことなどけっしてないであろうカラーリングだ。
ことほどさようにいいことづくめのオオアカホシサンゴガニなんだけど、なまじたくさんいるからだろうか、エビカニ変態社会方面ではさほど重宝されていないように見受けられる。
ところで、サンゴガニの仲間たちは、住んでいるサンゴ郡体の大きさによって居住定員数がだいたい決まっている。
彼らはサンゴの出す粘液とそれにからめ取られた微小な有機物を食べて生きているため、カニの居住可能数は、住処及び食料を提供してくれるサンゴの大きさに比例しているのだそうだ。
ところがナイトダイビングでたまたま枝間にいるオオアカホシサンゴガニを観ていたときのこと、ライトを当てているために明るいところに寄ってくる性質がある遊泳性のゴカイを、オオアカホシサンゴガニが素早い動きで捕らえ、ムシャムシャと満足そうに食べるというシーンを目撃してしまった。
粘液&微小な有機物食というそれまで抱いていたイメージとのあまりものギャップに、私は長らくその姿を忘れられないでいた。
その後、日中にエンマカクレエビを観ていた際には、エンマカクレエビがゲットしていた何かの稚魚を猛然と奪い取り、ムシャムシャ食べるカノコサンゴガニの姿も目にした。
ゴカイであれ稚魚であれ、それはもう立派な肉食系だ。
ホントはそういうものを食べたいところをグッとガマンして、普段は細々したもので辛抱しているのだろうか。
そのような肉食系食事シーンは滅多に観る機会が無いかわりに、わりと頻度高く目にするのが、おめでたシーン。
普段よりもやや腰高になっている場合、たいていそのお腹に小さな卵をたくさん抱えているオオアカホシサンゴガニ。
お腹部分を拡大してみると…
タマタマ~♪
そんなエッグケア中のメスに気安くカメラを向けると、カメラを威嚇するようなポーズをとる。
卵を抱えたメスともう1匹が、仲睦まじく寄り添っていることもある。
サンゴ群体のサイズに応じて個体数が変わるとはいえ、同じサンゴ群体に2匹いるとしたら、それはもうペア確定。
1つのサンゴ群体が収容可能なサンゴガニ類の個体数とはすなわち、ペア数ということになるようだ。
リーフエッジ付近で観られる一般的なサイズのヘラジカハナヤサイサンゴだと、オトナのオオアカホシサンゴガニのペアはほぼ1組限定で、そこにチラホラとチビターレがいるくらいのもの。
つまりヘラジカハナヤサイサンゴの群体はほとんどの場合、オオアカホシサンゴガニのペア貸切状態ということになる。
なにげにドルチェ・ビータな夫婦なのである。
ところで、オオアカホシサンゴガニとわざわざ「オオ」をつけているくらいだから、これとは別にアカホシサンゴガニという種類もいるのかな…と朧に思っていたその昔、赤星模様がある小さなサンゴガニに出会った。
オオアカホシサンゴガニに比べれば、赤星模様は体に比して大きく、なんだか可愛げがある。
なるほど、これがアカホシサンゴガニか…
…と思いきや、これはオオアカホシサンゴガニのチビターレであって、そもそも「アカホシサンゴガニ」なる別の種類は存在しないのだった。
< じゃあ、アカホシサンゴガニでいいんじゃね?
おいちゃん、それを言っちゃあおしまいよ。
※追記
実はアカホシサンゴガニなる種類もいるらしいことを知った。
ではどのような姿をしているのか…と画像を求めたところ、和名で検索しても表示されるのはオオアカホシサンゴガニばかりなのに対し、学名(Trapezia tigrina)で検索してみたら、オオアカホシサンゴガニとはひと味違う写真がたくさん出てきた。
いたんだ、アカホシサンゴガニ。
オオアカホシサンゴガニの「オオ」には、ものすごく重要な意味が込められていたのである。
で、↓これがそのアカホシサンゴガニかな?
前世紀に撮ったもので、当時はオオアカホシサンゴガニのチビと思い込み、あらためてサンゴガニに注目している今回は、アカモンサンゴガニかな…?と思っていたカニさんだ。
見比べてみるとたしかにオオアカホシサンゴガニのチビチビとは赤点模様の密度が違うように見えるし、地色はオレンジ系ということになっているアカモンサンゴガニの特徴とは異なっている。
危うくこの世に存在していない認定してしまうところ、すんでのところで蘇った前世紀の写真なのだった。