体長 8mm
最初は出会うものすべてに感動していた海の生き物たちにも、ダイビングの本数が増えていくに連れ、いつでも出会えるものとか滅多に出会えないものなどといった区別がついてくる。
やがて、海の中を初めてその姿を目にしたときには感動的だったツノダシもやがては目の端スルーキャラになっていくのとは逆に、それまで1度も出会ったことがなかった生き物に対してはヨロコビ度がグーンとアップする。
そういう興味を持つようになると、必然的にいろいろな図鑑も目にするようになる。
すると、リアルな海の中での出会い以外に、図鑑でも数多くの(個人的に)知られざる生き物と出会えるようになる。
様々な図鑑を何度も何度も繰り返し見ていれば、相当数の生き物の存在を知るようになってくるとともに、それほどチェックしている様々な図鑑にすら載っていない「初モノ」に出会うと、その興奮はアドレナリン沸騰級になる。
その生き物は、ときには
「なんだこりゃ?」
的な不思議であったり、
「すごいモノを見た!」
的感動であったり。
そのどちらも味わったのが、↓このエビだ。
体長1cmにも満たないチビチビエビながら、見た感じこれがオトナサイズのようだった。
初遭遇は1999年のことで、当時は名前などもちろん知る由もなく、図鑑ですら見たこともないエビを発見したことに狂喜乱舞したものだ。
そこは水深20mほどの砂底で、スナイソギンチャクの傍らに大小数個体がいて、鋏脚が大きいものとそうでないものがいた。
ずんぐりむっくりなヤツがメスなのだろう。
こんなレアなエビ、一期一会的千載一遇に違いないと信じ込み、枚数が限られているフィルムを最大限使ってパシャパシャ撮った。
ところがその翌年も、前年とはかけ離れたところで、同じくスナイソギンチャクの周りにこのエビがたむろしていた。
こんなにいるってことは、きっと既知のエビに違いない……。
今のように甲殻類の図鑑まで次から次へと世に出てくる時代ではなかったから、一般に知られてはいなくてもアカデミズムの分野では存在が知られている、というエビカニもけっこういた。
もしこのエビもそういった種類なのであれば、是非とも名前を知りたいと思い、当時情報のやりとりを多少していたことがある奥野淳兒先生に問い合わせたところ、サガミツノメエビという立派な和名をご教示いただいた次第(トゲツノメエビと同じ属)。
その後もコンスタントに出会えているサガミツノメエビながら、サイズがサイズでしかも居場所が居場所だけに、いまひとつ地味な絵柄になってしまうことが多い。
ところが初遭遇から14年経った2014年に出会ったサガミツノメエビは、こんなところに乗っていた。
チャツボボヤの仲間の上で、周囲がきれいだからかエビの体まで普段より美しく見える。
周りの砂底に他個体がいるわけではなく、このエビだけポツンと乗っていたから普段の様子とはちょっと違うけれど、サガミツノメエビであることは間違いない。
初遭遇以後何度も出会っているサガミツノメエビながら、ホヤの上に乗っているのを見たのは後にも先にもこの時かぎりのことだ。
たとえ種類は珍しくなくとも、シチュエーションがレアケース。
出会いのヨロコビには、そういうバリエーションもあるのだった。