体長 1cm
エビカニと一口に言ってもその姿形はいろいろある。
エビと聞いて一般的に思い浮かべるフォルムとはまったくかけ離れた独特の風貌を持ったものもたくさんおり、それが未見の種類であれば、是非ひと目お会いしたい!!と思ってしまう。
トゲツノメエビは、私にとってそんなエビのひとつだった。
有名なフリソデエビに対応させて、かつてはトメソデエビという通称で呼ばれていたエビである。
けれどこのエビはその名が知られているわりには相当レアなので、見たいと思ったからといってすぐに見られるはずもなく、初めてその存在を知ってから是非観てみたいと思い続けて幾星霜、何年も経ってからようやく出会うことができた。
世界のM下さんの手の中で。
セルフで潜っていた彼が、岩場のポイントの水深20mほどのところに広がる死サンゴ礫ゴロゴロゾーンにてちょいと石を引っくり返したら、一発ツモで出てきたというから、世界の海を股にかける彼も(当時)、さすがに興奮モードだったはず。
が。
初めて見ることができた私はめちゃくちゃ嬉しかったけれど、めちゃくちゃ哀しくもあった。
というのもそのときは他のゲストをガイド中だったので、残念ながら私はカメラを手にしてはいなかったのだ。
しかも手の中にいたはずのトゲツノメエビはあらら?という間に行方不明になってしまい、つぶさに眺めるヒマさえないまま終わってしまった。
その後長らく再会を果たすことができず、ひょっとしたら、人生最初で最後の機会だったのかもしれない……
…と思始めた頃、初遭遇から実に8年経った2012年、ついに再会することができた。
滅多に潜ることがない真冬も真冬の、新年潜り初めのダイビングでのことだった。
1時間も潜っているとさすがに寒さが募るので、そろそろ船に戻ろうかと梯子にとりついたとき、ふと下方を見やると、海底で石をめくっているだんながいた。
すると彼は突如片手で何かを握り、周りをキョロキョロし始めたではないか。
私の姿を探しているのだろう。きっと何か珍しいものがいたに違いない。
観に行ってみると、はたしてだんなの手の中には……
……コソデウミウシが。
たしかにそれほど多いウミウシではないけれど、そんなに興奮するほどのものか?
と、いぶかしみつつさらによくよく見てみたら、それはトゲツノメエビなのだった。
私を探しているっぽいだんなに構わずさっさとエキジットしていたら、とんでもなく後悔大爆発の潜り初めになってしまうところだった。
もっとも、この年の4月からようやくデジイチを導入した私はこのときまだコンデジオンリーだったため、貴重なる出会いの記録はすべてだんなに託した。
ところでこのトゲツノメエビ、横から見るとそうでもないのだけれど…
…前から観ると、このエビはコソデウミウシにそっくりではないか。
なるほど、トゲツノメエビはコソデウミウシに擬態することによって身を守っているんだ!!
ところが。
この私の画期的な大発見は、最初からトゲツノメエビに見えていただんなにあっさり却下されてしまった。
ちなみに、この子がコソデウミウシ。
みなさんはどう思います?
それはともかく、なにはともあれトゲツノメエビ。
水納島においてこれまでのべ3万8千個くらい石をめくり続けているゴッドハンドO野さんですら、おそらくまだ水納島ではご覧になっていないはずの超レアなエビちゃんに、新年早々の潜り初めで巡り会えるだなんて!
こいつは春から縁起がいいや!!
…と喜んでいたら、この年の秋に襲来したスーパーストロング爆裂台風のために、我がミスクロワッサンは避難先の渡久地港にてあえなく転覆の憂き目にあったのだった(詳細を知りたいというモノ好きな方はこちらからどうぞ)。
全然縁起良くなかったじゃん、トゲツノメエビ…。