体長 15mm
一望白い砂しかないように見える砂底にも、ところどころに岩があったりイソギンチャクがいたり海藻が群落をつくっていることもある。
流れに身をまかせながらも拠点となるところが欲しい小さな生き物たちにとって、そのような砂上の何かは砂漠のオアシスのようなものなのかもしれない。
とある砂地のポイントにも、高さ30cmほどに育っている小ぶりなヤギが、なぜだか唐突に砂底から生えているところがある。
周囲を見渡しても、近くに根があるわけでもリーフが近いわけでもないから、まさにポツンと一軒家状態だ。
そのため拠点を求める小さな生き物たちの格好の拠り所、もしくはひと息つきどころになっているようで、これまでに何度も「おッ!?」という生き物に出会っている。
このシオサイカクレエビもそのひとつ。
いつものようにカメラを携えてチェックしに訪れてみたところ、ひと目で初遭遇とわかるこのエビがいた。
一見儚げに見える透明系ながら、頭部から腰にかけて、ハイセンスな(?)模様が美しい。
なかなかにビジュアル系のこのエビが人生初遭遇であることはわかっても、出会った際はなんというエビなのかまったくわかっていなかった。
幸いなことに時代はすでに変態社会全盛、最新最強エビ図鑑「サンゴ礁のエビハンドブック」には、しっかり和名付きで掲載されていた。
このテのエビといえばヤギやイソギンチャクなど宿主に寄り添う暮らしをしていそうと思いきや、図鑑の解説によると、このエビちゃんはなんと自由生活なのだとか。
自由生活というのは自由業という意味ではなく、特定の宿主に頼ることのない風来坊人生を送っているということだ。
だからこの日こうしてこのヤギについていたからといって、翌日再訪して再び出会える保証はまったく無い。
事実、出会えたのはこの日この時だけで、まさにピンポイントの千載一遇だったのだ。
もっとも、ヤギのポリプと比してもおわかりいただけるとおり、このエビちゃん、甚だ小さい。
クラシカルアイでは、そんな貴重な一期一会に気づくことすらできないかもしれない。
かくいう私はかろうじて存在にはピピピッと反応できたけれど、写真を撮って以後もずっと、このエビはハサミ脚や他の脚が随分欠損しているものと思い込んでいた。
ようやく休憩所にたどり着くまでの長い旅路の間に、いろいろあってホーホーのテイになっているように見えたのだ。
ところが、脚が白く色づいて見えるのはそもそも一部分のみで、他の脚は透明で見えていないだけだったのだ。
ハサミ脚も欠損しているわけではなく、もともとティラノサウルスの腕的小さなハサミ脚なので目立たないだけだった。
この顔つきといいハサミを含めた脚の感じといい、なんとなくコガラシエビに似ていると思うのだけど、コガラシエビはテナガエビ亜科、シオサイカクレエビはカクレエビ亜科なので、まったくの別枠扱いだ。
きっとさらに目に見えない部分に、決定的な違いがあるのだろう。