(クモガニの仲間たち その1)
甲幅 5mm前後
クモガニの仲間は、ひと昔前まではクモガニ科というひとつの科にまとめられていた。
ところが、科のレベルでひとつにしてしまうのはいささか無理がある、ということになったのだろうか、それらはクモガニ上科という、科よりも半段階上でまとめられ、クモガニ科のほか、4~5つほどの科に細分されたようだ。
当コーナーで「クモガニの仲間」と総称しているのはかつてのクモガニ科、すなわち現在のクモガニ上科に属すカニたちのことをさしている。
ただし前述のようにクモガニ上科の守備範囲(?)は相当広く、なにしろ有名かつ巨大なタカアシガニや高級水産資源のズワイガニも所属する大小様々なカニを網羅するグループだから、ピンキリの「キリ」のほうに位置する水産資源的無価値クリーチャーに関する分類学的研究は、今に至るもまだ「端緒」といったところのようだ。
そのため図鑑やネット上で正体を知ろうと頑張ってみても、判明することといったら「クモガニの1種」くらいが関の山。
長年その存在が知られ続けていたオランウータンクラブでさえようやく近年になって「種」として記載され、学名(Oncinopus neptunus)や和名(ミナミクモガニ)がついたくらいだから、他の名も無きクモガニの仲間たちなんていったら、「名も無き…」が比喩でもなんでもなく、ホントに名前が無い。
なので、冒頭にズラリとラインナップさせてみたものは、現在我々シロウトがどのように調べてみたところで「クモガニの1種」で終わると思われる。
そんな「クモガニの1種」たちのうち、1番については、このグループの元祖的存在のザ・クモガニ(Oncinopus aranea)なのではなかろうか…と思っていたりする。
ナイトダイビングの際に、リーフ際付近でチョコンと鎮座しているのをよく見かけるもの(3番)と同じ種類にも見え、個人的に同種と思っている↓これも…
↓これも…
ザ・クモガニなのではなかろうか。
それぞれ体や脚につけているものがあったりなかったり、つけていてもモノが異なっていたりという違いはあれど、長く鍵爪状になっている脚に櫛の歯状に毛が生えているあたりもそっくりだ。
…って、それはこの仲間すべてに共通の特徴というだけのことかもしれないけど、そこはシロウトならではの気軽さ、このまま強引に話を進めていくと、1番と3番と↑これらのカニたちが同じ種類となれば、2番も、そして4番も同じに見える。
4番の子はパッと見チャツボボヤ軍団を背中に背負っているように見えるけれど、これはガヤにホヤがついているところの下に、たまたまこのカニがいただけのようだ。
それはともかく、2番のカニは、一見まったく別に見える5番のカニと同じところ(小さなヤギの枝上)にいたもの。
同じヤギにいるというのに、2番は体表に藻が生えているだけなのに対し、5番は藻が褐色であるうえに、細かい砂がたくさんまぶされている。
これは、まったく異なる環境に暮らしていた5番が伴侶を求めて旅をするうちに、ついに出会った愛しい伴侶(2番)…ということなのだろうか。
であれば、見かけはまったく違って見えようとも、両者は同じ種類…ということになる。
以上はもちろんシロウトの戯言だから本気にされたら困るので、みなさんにおかれては「ハイハイ…」と聞き流してください。
みんな同じ種類ってことにしたがる私でも、さすがに別種だろうと思っているのが6番以降のカニたちだ。
6番はガヤのそばにいることが多く、クビナシアケウスのような感じで、脚という脚におそらくガヤと思われるものを装着しまくっている。
これでガヤについていようものなら、ちょっとやそっとじゃカニだなんてことに気づけないほど(PCでご覧の場合は、↓この写真をクリックすると大きな画像になるので探してみてください)。
何かいはせぬか…と指示棒などでガヤをそぉっと撫でたら、このカニがジワジワ…と動きだして驚いたこともある。
背中側から見るとこんな形をしている。
ガヤにいるからガヤクモガニと私が勝手に名づけているこのカニの若い頃なのだろうか、もう少し小柄なものにも出会う。
大小の違いだけで、両者は同じ種類ですよね?
お相撲さんが仕切りをしているようなポーズをしている7番は、一見オランウータンクラブことミナミクモガニっぽく見えるのだけど、なんというか、たたずまいというかそこにいる様子というかが、地上に降りたミナミクモガニとはいささか異なって見える。
また、藻の下に隠された甲羅の形状が、なんとなく6番以前のカニたちとも違うような気がする。
じゃあ誰?
それはもちろん、「クモガニの1種」。
8番はもう、写真をご覧いただいてすらこれがカニであると言うのが憚られるほどだから、エビカニにさほどの愛を持たない方々にはただの藻の塊にしか見えないかもしれない。
しかしよぉ~く見ると、クモガニっぽい長い脚があることがわかる。
これも7番同様、甲羅の形がザ・クモガニとは異なっている気がする。
あくまでも「気」がするだけですけど。
気がするといえば、これまたまったく別モノっぽいのがこちら。
砂地のポイントのかなり深いところで観られる骨格のような白いサンゴの仲間についていたもので、よく見るとその脚には背後のサンゴのポリプではなくヒドロ中の仲間がたくさんつけられている。
さらによく見ると、彼女のお腹にはたくさんの卵が。
こんな深いところで人知れず卵を保育している、名も無きクモガニの仲間…。
…って、これもやっぱりクモガニの仲間ですよね?
ここで紹介しているものたちは、おそらく現在急ピッチで分類学的研究が進められているはずで、満を持して世に出てくるであろう最新エビカニ図鑑には、目新しい和名がズラリと並んでいることだろう。
生きているうちに出版されるかなぁ…。