甲幅 10mm
「コマチ」と名のつくエビ・カニ類はけっこう多い。
ハクセンコマチテッポウエビの稿でも触れているように、「コマチ」というのは昔の日本におけるウミシダの通り名で、甲殻類の名に「コマチ」とついていれば、ほぼ例外なくウミシダを暮らしの場にしていると思って間違いない。
ひとくちにウミシダといってもいろいろタイプがあって、日中の明るいうちから美しい姿を惜しげもなく晒しているものたちもいれば、屋外活動をするのは夜のみで、日中は石の下など暗いところでジッとしているものもいる。
トゲコマチガニは、後者のウミシダ類を定宿にしているカニだ。
今でこそ石の下の環境保全協会を名乗りダイビング中に石をめくることをやめている私ながら、ひところは1本のダイビングにつき5個と上限を設け、石の下を探索していたこともある。
2003年に刊行された「エビカニガイドブック久米島編」で実に魅惑的なエビカニたちが石の下に潜んでいることを知り、しばらく小康状態が続いていた私のエビカニ熱に再び火がついたためである。
というわけで、普段あまりヒトが訪れないところで石をめくってみると…
出るわ出るわ、今まで見たことのなかったエビカニたちのオンパレード。
その中のひとつが、このトゲコマチガニだ。
石の下には触腕が疎らなタイプのウミシダがけっこういて、その中央円盤付近の裏側にピト…とついていることが多い。
冒頭の写真のように上から見ると目立たないけれど、横から見ると…
…名前のとおり体にトゲトゲがあって、かなり戦闘マシーン的フォルムになる。
ウミシダの色は様々だから、それに合わせて体色も変えられるようではあるけれど、ウミシダの色にかかわらず基本的にストライプ模様が入るようだ。
いずれにせよ日中は暗いところにいるわけだから、色味などあまり関係なさそうだけど…。
ところで、先述のように日中石の下にいるタイプのウミシダたちは、夜になると外に出てくる。
するとトゲコマチガニたちは、外に出てきたウミシダにピト…とついたままなんだろうか。
それとも、夜はウミシダから離れて屋外活動に精を出しているのだろうか。
20年前では考えられないことに、ネット上にはトゲコマチガニの写真が星の数ほど散らばっていて、なかには彼らの夜の様子を伝えてくれるものもある。
それによると、夜のトゲコマチガニは外に出てきているウミシダの表側にピト…とついているらしい。
「コマチガニ」だけあって、昼夜を問わずやはりウミシダからは離れられないようだ。
となると、石の下の環境保全協会を設立している現在、トゲコマチガニに会うためには夜潜るしかないわけか…
…と、もう2度と日中にトゲコマチガニに出会うことはないと諦めていた矢先、ふとしたはずみで日中外に出ているウミシダについているトゲコマチガニに出会った。
喜んで撮ったはいいけれど、はて、これってホントにトゲコマチガニなんでしょうか?
でも背中の模様が微妙に異なるし、上から見て目立たないトゲは、前から見ても…
…ほとんど無い。
模様が異なりトゲが伸びてないのはまだ小さく若い子だから、なのだろか。それともトゲコマチガニとシロスジコマチガニの合いの子のような別の種類がいるのだろうか。
住処にしているウミシダが異なるところからすると、違う種類なのかな?
※追記(さっそく追記)
どうも別の種類のような気がする…と思ってその後も調べていたところ、どうやら↑このカニさんは「テナガコマチガニ」という名の別種らしいことが判明(といっても私の勝手な思い込みである可能性は大だけど)。
というわけで、別枠にて改めて紹介します。