甲幅 5mm
琉大を卒業したあと、都内で数年勤めていた頃に通っていた伊豆の大瀬崎の湾内では、日中であっても水中が暗いせいか、海底から大きなウミエラがたくさん出ていた。
そのウミエラのフサフサしている枝間を覗くと、割合高確率でウミエラカニダマシに出会うことができた。
西伊豆大瀬崎にて@90年代前半
西伊豆大瀬崎にて@90年代前半
伊豆とは違って水深30mでも明るい水納島の白い砂底では、あいにく日中にウミエラ類を見かけることは少なく、天気の悪くて海中が暗いときに、高さ10cmにも満たない小さなものをチラホラ見る程度だ。
伊豆その他本土の海で大きなウミエラを当たり前にご覧になっている方からすれば、こんなに小さなウミエラは「ウミエラダマシ」なのではないか、と思われるかもしれない。
そんな「ウミエラダマシ」的に小さなモノながら、夜間に潜ってみると比較的浅い砂地でもいくつかのウミエラがニョキニョキ生えている。
まだ水納島に越してくる前か越してきたばかりの頃だから94年か95年に、そんな「ウミエラダマシ」のてっぺんで顎脚を広げ、一生懸命プランクトンを採っているカニダマシに出会った。
ウミエラ自体は小さくとも、どうやらそれは伊豆で観ていたウミエラカニダマシと同じ種類だったようだ。
水納島にもウミエラカニダマシがいるのか…。
…と認識を新たにしたものの、その後長い間ウミエラカニダマシとの再会を果たせぬままにいた。
ところが世紀も変わった2004年に、ようやく巡り会うことができた。
ある晴れた日のこと、水深17mほどの砂底から半分ほど身を出しているウミエラがいたので、何の気なしに覗いてみたところ、砂に埋まりこむ寸前の幹(?)の部分に、ウミエラカニダマシがついていたのだ。
本来なら明るすぎてウミエラは埋もれているはずのところ、うっかり出てきてしまったのだろうか。
写真的にはチャンスを全然生かせなかったものの、10年ぶりに出会えたヨロコビに浸りつつ、ふと考えてみた。
前世紀の水納島では、日中の明るい時間帯の砂底にウミエラが出てきているなんてことは、まずありえなかった。
ところが今世紀になってから、前述のように昼日中の明るい時にウミエラが出ているのをちょくちょく見かけるようになってきて、年によっては水深40mほどの砂底がウミエラの林になっていたこともあった。
水深40mとなると白い砂底でもさすがに照度は落ちるとはいえ、それ以前にこんなシーンを目撃したことはなかっただけにびっくりした。
今年(2022年)の春から初夏にかけての間には、随分浅いところまで、せいぜい10cmほどの細いウミエラが、やけに浅いところから深いところまで、そこらじゅうといっていいくらいにニョキニョキ生えていた。
明るい時間帯にもかかわらず、このようにウミエラがニョキニョキ出ているのはなぜだろう。
ひょっとして、透明度・透視度が昔に比べて遥かに低くなったために、日中の砂底の照度が落ちているのでは?
それはそうと、昔に比べれば随分目につくようになってきたウミエラながら、林になっていた細長いウミエラでも、小さくひ弱そうなウミエラでも、残念ながらウミエラカニダマシは確認できなかった。
それでも、10年ぶりの再会を果たしたあと現在に至るまで、ウミエラカニダマシと数度遭遇できている。
水納島の場合、サーチの際に特に期待が持てるのは、↓こういうタイプのウミエラだ。
それでも気が遠くなるほどの低い確率ではあるものの、その枝間を覗いてみると…
ウミエラにピト…とついている小さなウミエラカニダマシの姿を拝めることもある。
同じカニダマシの仲間とはいえ、アカホシカニダマシあたりと比べればはるかに小さいから、アカホシカニダマシサイズのつもりでいると、クラシカルアイでは気づけないかもしれない。
ウミエラの「エラ」の間にいると観づらいけれど、幹(?)の部分に乗ってくれていれば、観やすく撮りやすい。
ただし彼らはそもそも隠れ潜むためにウミエラについているわけだから、こうしているときに無遠慮にカメラを近づけたりライトを当てると、チョコマカと動いて観づらいとこに逃げてしまう。
近頃とみに目にする頻度が増えた、レンズの周囲にライトがついているコンデジで、被写体がなんであれワーキングディスタンスゼロレベルの接写をしようとする方々には特に配慮を願いたいところ。
小さなカニさんたちにも、ソーシャルディスタンスというものがあるのだ。
…と、ここまでずっと、これらのカニダマシをウミエラカニダマシだと信じていた私。
ところが、ちょっとタイプが異なるウミエラについていたこのカニダマシを撮っただんなは…。
写真を見てポツリといった。
「これって…ウミシャボテンカニダマシなんじゃないの?」
え?
そういえば、伊豆で観ていたウミエラカニダマシに比べると体つきが薄っぺらいし、体型もやや細長く見える…と最初の頃に思ったことがあったっけ。
なるほど、今冷静に見比べてみれば、ここで紹介している水納島産のものはすべて、ウミシャボテンカニダマシじゃないか。
そして手元には、水納島産のウミエラカニダマシの写真など1枚も無い。
というわけで、以上ツラツラと水納島のウミエラカニダマシについて述べてきたことはすべて、ウミシャボテンカニダマシのことだったので、みなさまくれぐれも誤解なきよう…。
いずれにせよ水納島では昼間に滅多に会えないクリーチャーであることは間違いない。
千載一遇のチャンスが到来したら、慌てず騒がず、ソーシャルディスタンスをキープしつつ冷静に…。